検察審査会は、くじで選ばれた市民11人が、検察が不起訴と判断した事件について、本当に不起訴でいいのかどうか、弁護士の助言も得て市民の視点から判断する。今回の強制起訴については、理詰めで不起訴とした検察による「プロの判断」を、市民が「感情論」で覆した、ととらえた人も多いようだ。

 しかし、それは誤りで、むしろ検察審査会の判断のほうが理にかなっている。

 大きな争点の一つは、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が02年に「福島県沖を含む日本海溝で発生する」と予測した津波についての考え方だ。

 東電は08年には、このタイプの津波が従来の予測5.7メートルを大きく超える15.7メートルになると計算していた。一方で、敷地の高さ(10メートル)を超える津波が襲来する確率は10万年から100万年に1回で、とても低いという計算もしていた。

 東京地検のプロたちは、「確率は低い」という東電の計算を信じていたらしい。不起訴の際は、この数値を具体的に示して「回避する義務があったとは認められない」と説明している。「わずかな可能性を考えたらきりがない」「万が一に備えよというのは酷だ」と考えたらしい。

 この確率が「本物」ならば、検察の言い分もわかる。ところがこの確率には、実は科学的な裏付けがない。「地震がどこで起きると考えるか」「規模はどのくらいか」などを、主に電力会社の社員らにアンケートした結果をもとにした数値だからだ。この方法には、アンケートを実施した土木学会内部でさえ「地震学者以外は、専門的知識がベースになっていないのでは」と批判があったことが土木学会の部会議事録に残っている。

 東京地検の「不起訴」は、そんなお粗末な数値を根拠の一つにしていたのだ。

AERA 2015年8月17日号より抜粋