日本の原発には、沸騰水型(BWR)と加圧水型(PWR)とがある。いずれも米国の技術で、BWRはゼネラル・エレクトリック(GE)、東芝、日立、PWRはWH、三菱重工が採用。日本の原発市場は、PWRの三菱重工と、BWRの東芝・日立が分け合う構図になっている。

 WHを取り込めばPWRも手に入る。国内市場だけでなく世界の原発需要を取り込める──そう考えてWH買収を決断したのは、積極経営を率先する西田社長(当時)だった。

 経済産業省の官僚OBは言う。「日立を意識するあまり、東芝は財務体質の弱さを顧みずに無理を重ねた。その姿には、トヨタ自動車に競争を挑んで経営危機に陥った日産自動車と似た体質を感じました」

 WHを取り込んだ東芝の稼ぎは膨らみ、08年3月期の連結売上高(米国会計基準)は過去最高の7兆6680億円に達した。その陰で、世界経済には異変が生じてきた。同年秋にリーマン・ショックが起き、東芝は09年3月期、2501億円の営業赤字に転落。西田氏は社長を退き、歯車は狂いだす。

 破格の買収額が重荷になる。「抱え込んだ含み損を東芝は処理できるのか」。そんな疑念が市場に広がった。

「ウェスチングハウスの買収に伴い、当社のバランスシート(貸借対照表)には3507億円ののれん代と502億円のブランド料が計上されています」(東芝広報)

 のれん代とは、「取らぬタヌキの皮算用」を数字で示したものである。原発が世界で増設されれば、屈指のメーカーであるWHに相当な受注が入る。5~6年で三十数基を受注できる潜在力がある会社を買ったのだから、3500億円ほどの無形資産があると評価できる、というのが東芝の説明だ。

 ブランド料を合わせ約4千億円ののれん代は、リーマン・ショックで怪しくなり、東京電力福島第一原発の事故がとどめを刺した。15年度までに39基受注という計画は「幻」になった。

AERA 2015年8月3日号より抜粋