欧米諸国では第1次世界大戦以降、戦争によるPTSDや精神疾患の研究が進みました。米国はその後もひんぱんに戦争をしており、対策についてのノウハウも持っていますが、それでも多くの帰還兵が苦しんでいるのが実情です。

 日本では欧米に比べて同様の研究が立ち遅れていたうえ、太平洋戦争後は途絶えてしまいました。しかし近年、自衛隊の海外任務の拡大に伴い、「派遣ストレス」や「コンバット(戦闘)ストレス」の問題が、自衛隊内部や医療関係者の間で本格的に議論されるようになっています。

 現状でも平和な日本での生活と派遣先での暮らしとの落差はあまりにも大きい。イラクでは自衛隊の宿営地にロケット弾が撃ち込まれる事件も起きました。

 PTSDに苦しむ米軍の帰還兵の間では、自殺したり、アルコール依存症になったり、家庭内暴力の末に離婚したり、社会に適応できず新しい仕事に就けなかったり、といった人が少なくありません。自衛隊員が海外で戦闘を経験し、同じような状況に陥ったら、日本社会全体として受け入れる覚悟はできているのでしょうか。

AERA 2015年7月20日号より抜粋