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 いま、親たちは、多方面に「もっとちゃんとしなければ」「ワンランク上を目指さなければ」というプレッシャーを感じている。仕事、自分磨き、家事…そしてもちろん、子育てもそのひとつだ。

 神奈川県の専業主婦(48)は、息子3人の中学受験を保留にし、野球とボランティア活動をさせている。幼い頃に多くの大人と関わってさまざまな経験をさせ、自己肯定感を育むことが将来につながると思うからだ。受験一辺倒では、「人間力」は身につかないと思う。それでも同級生が受験塾に行き始めたと聞くと、心がざわつく。

 自身は中学受験をした。トップだった成績は私立中学では中の下になり、自信をなくした。電車通学で通学時間がかかるため、好きなテニスも諦めた。自己肯定感が低いまま就職し、出産退職。親になることが不安で、チャイルドマインダーの資格を取り、モンテッソーリの教育理念を学んだ。

「どの『台』に乗せるかを親が選べるからこそ、悩ましい。もっと良い台があるのでは、と考えるときりがない。子育ては適当でいい、と教えてくれるために3人も生まれてきたのかな。一人っ子だったら、私も子どもももっと苦しかったかも」

 長女(11)に小学校受験をさせ、英語教育に熱心な私立小に通わせる女性(50)は、5年生からは思い切って東南アジアのインターナショナルスクールに留学させることにし、母子で渡った。

 長年、外資系企業に勤めてきた女性には、仕事をしながら感じてきたことがある。英語のスキルはあっても、会議で意見を言えない。プレゼン力や専門スキルなどプラスアルファがなければ仕事に役立たない。長女にも仕事を通して社会とつながってほしい。学校英語だけでは足りないと感じた。

 留学先で英語や多様な価値観に囲まれる環境はまさに願い通り。しかし親の思い通りにはいかない。長女は次第にスクールで「イエス」しか言わなくなり、「日本に帰りたい」と連発。2年間の予定だった留学を1年で切り上げた。

 なぜ今、親の判断が子どもの人生を左右するというプレッシャーが強まっているのか。武蔵大学の千田有紀教授(家族社会学)は指摘する。

「専業主婦が当たり前の生き方だった時代と比べ、今は子どもを産むことや育てることが運命や母性ではなく、選択や能力で語られるようになった。親業は達成すべき一つのライフスタイルになり、仕事と同じように業績主義的な感覚でとらえられているのです」

AERA  2015年6月8日号より抜粋