震災復興に自分の何が役立てられるのか。アサヒビールの近畿圏統括本部営業企画部担当副部長、伝田(でんだ)潤一さん(49)は2年前、自ら希望してビールの営業を離れ、東日本大震災の被災地へ向かった。同社は2008年、社員を社外へ派遣する「社外武者修行」の制度を始めた。震災後は復興に人材育成の仕組みを生かす制度を導入し、当時、広島にいた伝田さんが公募で最初の一人に選ばれた。

 派遣先は宮城県東松島市の「東松島みらいとし機構」。行政と民間をつなぐ中間組織として、震災後に設立され、企業の社員やNPOメンバー、自治体職員、市民と、思いや理想の異なる多様な人々が集った。その中で伝田さんが発揮したのは、社歴25年で培ったコーディネート力だ。

 思い起こすのは、市の未来のビジョンをつくる「フューチャーセッション」をリードしたこと。自分のアイデアで立ち上げ、多くの人々と10年後、20年後の東松島について何度も語り合い、ビジョンをまとめた。4月から大阪の営業現場に戻った伝田さんは言う。

「多様な価値観や思いをまとめ、新しいアイデアにつなぐ作業は会社では経験できないもの。人生観、仕事観が変わりました。企業は営利組織ですが、モノを売るだけじゃなく、社員一人ひとりが未来に向けて自分が何ができるのかを考えることが大切だと実感し、この経験を新しい職場でも生かしていきたい」

AERA 2015年5月4-11日合併号より抜粋