作家・甘糟りり子さんあまかす・りりこ/1964年、神奈川県生まれ。著書に『産む、産まない、産めない』『中年前夜』『エストロゲン』など(写真:本人提供)
作家・甘糟りり子さん
あまかす・りりこ/1964年、神奈川県生まれ。著書に『産む、産まない、産めない』『中年前夜』『エストロゲン』など(写真:本人提供)

 出産・育児をめぐる環境や価値観はここ数年でかなり変化してきた。作家の甘糟りり子さんは「多様な働き方」を認めることが大切だと言い、次のように話す。

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 私は妊娠・出産を経験しておらず、産んでいないのに何がわかるのか、と言われる不安はありました。だからたくさん取材して短編を書き、昨年、単行本『産む、産まない、産めない』にまとめました。

 初出の7年前と比べ、環境は変わりました。独身女性が騒ぐ子どもを注意する場面や、妊娠で昇進が白紙になるエピソードを書きましたが、今は子連れに文句を言いづらい雰囲気があり、「マタハラ」という言葉もできた。子どもがいる人への配慮に関心が向き、産んでいない人は置き去りな感覚もあるようです。

 子どもの声に慣れていないので「ギャーッ」と泣かれたら瞬間的にうるさいと感じます。そう感じることに卑屈になる必要もないけど、感情をそのまま表さないのが大人の態度でしょう。午後6時に子どもを迎えに行かなければならない人と、残業できる人なら、残業できる人とのほうが仕事しやすいのは確かだけれど、多様な働き方を尊重する。子どもがいない人は多少見えを張ってでも、文句を言わないほうがカッコイイ。

 子どもがいる人は、子どもが騒ぐことや早く帰ることに気を使い過ぎないでほしい。でも「産んだほうがいいよ」とだけは言わないで。産まないなりの楽しさや苦しさもある。「出産が女の人生のすべてとは考えないようにしませんか」。作中でも書いたこの言葉を伝えたい。

AERA  2015年4月20日号より抜粋