写真右から山形浩生氏(翻訳家、評論家)、加藤創太氏(東京財団上席研究員、国際大学教授)、湯浅誠氏(法政大学教授)、コーディネーターの高橋万見子氏(朝日新聞論説委員)(撮影/今村拓馬)
写真右から山形浩生氏(翻訳家、評論家)、加藤創太氏(東京財団上席研究員、国際大学教授)、湯浅誠氏(法政大学教授)、コーディネーターの高橋万見子氏(朝日新聞論説委員)(撮影/今村拓馬)

 トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』は、世界中で格差論争を巻き起こした。日本の現状はどうなのか。朝日新聞社のシンポジウムで、日本語版訳者の一人で評論家の山形浩生氏、比較政治経済学が専門の加藤創太氏、貧困や民主主義が研究テーマで社会活動家でもある湯浅誠氏らが語り合った。

【書評 ベストセラー解読『21世紀の資本』】

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加藤:ピケティ氏は、資本の論理が「所得上位1%」や「10%」の人に富を集中させていく、と主張しています。この本が分析の対象とした米国やフランス、英国、ドイツ、日本といった先進国は資本主義だけでなく民主主義の原理でも動いています。民主主義の原理とは、ぶっちゃけて言えば多数決。民主主義では「99%」や「90%」の人たちが有利なはずです。とすると、資本主義の原理と民主主義の原理はぶつかるのではないか。なぜ、民主主義国家で「1%」「10%」の人への富の集中を認めてきたのか。ピケティ氏はこの疑問には答えきっていませんが、富の集中には民主主義の論理も働いているはずだと考えています。

山形:米国では、左派は格差は拡大していると主張し、右派はそれを否定するという水掛け論が続いてきました。この本が出て、まだケチをつける人もいるものの、「どうやら格差の拡大は否定できそうにない」ということになった、という進歩はあったと思います。

 ところで、あるテレビ番組で識者が「日本では年収1500万円で上位1%」と発言したら、スタジオにいる人の一部は「えっ、私も『1%』だったの?」という反応でした。日本のお金持ちはあまり自分がお金持ちだと思っておらず、実態と感覚がずれています。

湯浅:「今持っている資産は、働いて得た所得を積み重ねた結果だ」と、一般には言われることが多いと思います。ただ、ピケティ氏は(親の資産が子に受け継がれることで格差が広がるという)「世襲資本主義」の問題を指摘しています。これについてはデータがないため日本の現状は分かりません。まず、この点に関する透明性を高めるべきではないでしょうか。

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