都内で働く清水さやかさんも会話を楽しむひとり。相手はお店で料理をするシェフだ。

「どうですか? 席、空いていますよ」

 2年前、偶然店頭に立っていたシェフの誘いで、六本木のバル「東京バル Ajito」に入った。厨房の目の前に設置されたカウンターに座り、調理をするシェフと会話を楽しんだ。以降「カウンター食」にハマった。

 もともと外食は大好き。20代のころは営業職で毎日残業続きだったが、「家と会社を往復するだけではイヤ」。たとえ帰りが深夜になっても、ラーメンや鍋などを楽しんだ。

 外食好きが高じて、グルメサイト「ヒトサラ」を運営するUSENの広報に転職。自社情報をメディアに売り込む毎日ではつい近視眼的になりがちだが、シェフとの会話は新鮮で自分を解放してくれる。例えば、起業した女性シェフ、人生経験豊富な年上シェフなどの話からは、普段接することのない世界を垣間見ることができる。

●「選食」から「戦食」に

 生活にも変化が生まれた。シェフが貸してくれた蒸し器を使ってみたり、もらった調味料を料理に使うように。実は清水さん、あまり料理が得意ではなかったが「次にお店を訪問したときに、きちんと会話したい」という理由で、半ば強引に料理の楽しみを知った。

「食事を楽しむだけでなく、カウンターで会話をすることで、視野も広がっています」

 ちなみに、外食続きだと栄養面が心配、という方も多いのでは。先のこばたさんは、外食続きのビジネスパーソンに「最低3種類」の法則を教えてくれた。ご飯やパンなどの「主食」に加え、肉や魚などの「主菜」、サラダなどの「副菜」の3種類。例えば牛丼なら、サラダとみそ汁などを加えてみる。

「ビジネスパーソンの食に必要なのは“選食”。外食続きでも、食べ合わせを考えてメニューを選べば“戦食”に変わります」

 出張の多い佐々木久美子さん(42)にとっても、食事は「戦食」だ。4年前、地元・福岡でIT関連企業「グルーヴノーツ」を立ち上げ、現在は営業拠点の東京と行ったり来たりの生活を送る。その毎日のエネルギーになるのが「食」だが、その食べ方には性格が表れる。

●広がった食への意識の幅

 例えばおいしいと評判の寿司屋に入っても、食べるのは好物のイクラとウニばかり。「ここの赤身はオイシイよ」と言われても耳を貸さない。「おいしさがイクラ以下だったら、全体の満足度が下がる」と、好物にしか手を出さない。実は佐々木さん、元エンジニアで、「プログラミングをしていたら24時間経っていた」というほど、驚異の集中力をもつ。「目の前のネタに一球入魂」の姿勢は、この集中力の表れかもしれない。

 おいしいものを見つけると、連続してそればかりを食べ続ける「マイブーム」に陥る。これまで、そのおいしさに触れていなかった人生を取り戻すかのように。焼き鳥、スリランカカレー、うどん……。ゆで卵がマイブームになったときは、「板東英二さんより私のほうが食べていた」。

 ただ最近、食の役割が変わりつつあるという。現在、佐々木さんは、経営者の立場にある。ひとつの作業に没頭できたエンジニア時代と違い、幾重にも予定が続く一日にストレスを感じることもある。食は「ほっとできる」癒やしのツールに変わった。

 忙しい毎日でも、自宅ではほぼ自分で料理を作る。疲れて帰った日ほどキッチンに立ち、料理ができたらダイニングテーブルをきれいに片づける。以前は、食事中のテーブルにパソコンや資料が置かれていることも多かったが、いまはテーブルをまっさらにし、そのうえで食事と向き合う。

 エンジニアから経営者へ。仕事の幅に合わせるように、食に対する意識の幅も広がった。

「1日3回という短いサイクルで、ストレスを解消してくれる。それが食のありがたさです」

AERA 2015年4月6日号