●公認お守りも激売れ

「去年、香港、台湾に行ったとき、すでに現地ファンが会場を埋めつくしてたなしよ。感動なっしー。喜んでくれる人がいるなら世界じゅうに行きたいと思うなっしー。海外に行くと、こっちの世界に来たばっかりの頃を思い出すなしなー。知名度がないから、町を歩くと目を合わせないようにする人がいたり。そんななか一人でも食いついてくれる人がいれば、全力で喜ばせたなっしー。タレントとしての需要がなくなっても、幼稚園で子どもたちと遊んだり、地元の梨をPRしたり、本筋をやっていけばいいなしよ」

 グローバルな人気者になっても、地元をもり立てるというご当地キャラの本懐を忘れない。そんなブレのなさも、一梨マーケティングの成功を支えた。ご当地キャラでありながら、地元からは非公認とされ、活動開始から1年ほどは地元のイベント参加ゼロ。「昔は一番アウェー」だった船橋も、今ではふなっしー景気に沸いている。

 船橋市地方卸売市場内にある山邦青果の浅沼仁専務は言う。

「13年に続き、14年もふなっしー梨箱約9千個を売り出したところ、全国から注文が殺到して数日で完売しました」

 他県と梨の取引も新たに始まり、同社の梨全体の売り上げは、この2年で約2倍にも膨らんだという。

「忙しいなか、北海道での梨のPRイベントに同行してくれるなど、本当にありがたい梨ですよ」(浅沼さん)

 ほかにも、市内の菓子工房「アントレ」が昨年、本梨の指名で作ったふなっしーケーキは、限定1日15個に、夜も明けないうちから行列ができた。1200年の歴史を誇る地元の「二宮神社」は、この1月にふなっしー公認のお守りを出したが、「普段の1年の10倍のお守りが、2カ月で授与された」(田久保美英宮司)という。

●スターに“梨”上がり

 デビューDVDのタイトルが予言したとおり、「ふなのみくす」はリアルで進行中だ。

「大スターなんかじゃないなっしー。ファンはきっと、梨を身近に感じてくれているなしな。梨皮の見かけからして不完全なっしー。でもこんな梨だから、まだ何かやってくれるかもと思ってもらえるなっし。梨も何でもやってみたいほうなしな。ルームランナーの動画からスターダムに“梨”上がった流れで、この梨どうなっていくんだろうと、みんな見守ってくれてると思うなしなー」

 前出の山崎さんは、まだ駆け出しだったころの梨を助けようと、ポケットマネーでアルバイトを雇って支えた。

「人気はすぐに終わるとずっと思っている梨です。すべてを一梨でやるのも、誰かを雇うと人気がなくなったときに迷惑をかけると心配するからだと思う。謙虚でやさしい梨ですから」

AERA 2015年3月16日号