花粉症に悩む人にとって、朗報ともいえる新薬が登場した。花粉症から解放してくれる可能性もあるという、その薬とは。

 花粉症には様々な対策があるが、薬も手術も対症療法に過ぎず、花粉症そのものを治すわけではない。唯一、根治の可能性があるのは免疫療法だ。

 免疫療法は、花粉症の原因となるスギ花粉エキスを少しずつ投与して体を花粉に慣れさせ、症状を和らげる方法だ。以前から皮下注射で行われていたが、頻繁に通院しなければならず、まれに重い副作用が生じることもあり、あまり普及しなかった。

 それが、昨年10月に国内初の舌下免疫療法薬「シダトレン」が発売されたことで状況が一変した。注射ではなく、舌の裏側にエキスを垂らす方法のため、自宅で治療ができ、注射による痛みもない。鼻だけでなく、目や皮膚も含めたあらゆるスギ花粉症の症状に有効だ。費用は保険が利いて月に千円ほど。花粉が飛散する2~3カ月前に開始し、最低2年間にわたって毎日、薬を投与する。今シーズンにはもう間に合わないが、うまくいけば一生、花粉症から解放される。

 千葉市に住む渡部淳子さん(47)は、20年以上も重度の花粉症に苦しんできた。仕事中はなかなか鼻をかめず、ティッシュで押さえてこらえた。ひどいときは目やにで目が開かず、外出中に眼科に飛び込んだことも。わらにもすがる思いで、千葉大学医学部附属病院耳鼻咽喉・頭頸部外科の岡本美孝教授のもと、シダトレンの治験に参加した。

「1回分ずつアルミパックされた薬を自分で口内に垂らし、2分間そのままの状態を保ちます。味は人工甘味料のような甘さですね。毎晩だいたい同じ時間帯に飲んでいました」

 治験期間は10年秋~12年春までで、花粉症シーズンを2度経験している。最初の春はあまり効果を実感できなかったが、翌年春からは劇的に変わった。

「鼻も目もとにかく楽になりました。20年ぶりにマスクもメガネも着けずに春の散歩ができるのがうれしくて」

 ただし、舌下免疫療法に課題がないわけではない。最低2年間、毎日薬を投与することは、忙しい人にとってハードルが高い。薬が液体のため冷蔵保存が必要で、旅行の際などに不便だ。だが、岡本教授は「今後、改良される可能性がある」と期待している。

AERA 2015年2月9日号より抜粋