ヴァレリーさんは億万長者になった(写真:gettyimages)
ヴァレリーさんは億万長者になった(写真:gettyimages)
すでにスペインで翻訳・発売され、他にアメリカなど10カ国での出版も決まっている (c)朝日新聞社 @@写禁
すでにスペインで翻訳・発売され、他にアメリカなど10カ国での出版も決まっている (c)朝日新聞社 @@写禁

 読書の秋。フランスで、記録的な売れ行きが話題になっている1冊の本がある。元ファーストレディーが書いた『この時をありがとう』だ。

 原題は『Merci pour cemoment(メルシー プール スモモン)』。フランソワ・オランド仏大統領と事実婚関係にあったヴァレリー・トリユルヴァイレールさんが私生活を赤裸々に綴り、9月4日の出版以来50万部を突破。電子版を加えると、70万部を超す勢いだ。

 一体、何が書いてあるのか。

 オランド氏は今年1月、女優ジュリー・ガイエさんのアパートで一夜を過ごして出てきた現場をゴシップ誌に掲載された。ヘルメットで顔は見えなかったが、靴で身元が割れた。

 不倫そのものよりも、護衛も手薄な状態でパリの町へ夜(よ)這ばいする国の最高責任者の無防備を非難する声が大きかったが、フランス国内ではこの暴露写真の掲載と同時にヴァレリーさんの入院も報道された。本には、この間の真相も描かれている。

 大衆誌パリマッチの記者でもあるヴァレリーさんは、このスクープの掲載情報を発売の3日前につかんだ。オランド氏を問い詰め続け、大統領は発売日前日、「ウィ」と事実を容認した。

 その夜、同じベッドで眠れぬ夜を明かしたヴァレリーさんは明け方、洗面所へ立つ。虫の知らせか、後を追ったオランド氏と寝室でもみ合いになり、彼女が手にしていた化粧ポーチから睡眠薬がこぼれ落ちた。ベッドや床に散らばった錠剤を手あたり次第に飲み込んだヴァレリーさんが意識を回復すると、そこは病院だった──。

 まるでフランス映画のワンシーンを見ているかのようだが、登場人物はほかでもない現役大統領。色恋沙汰を「生きている証し」と心得ている節があるお国ならではだ。

AERA 2014年11月3日号より抜粋