40歳も過ぎると、もの忘れがひどくなったと思う人は少なくないだろう。若くして認知症になると、負担の大きさは高齢者の比ではない。

 千葉県に住む藤田忠さん(仮名、50)も若くして認知症を患った一人だ。大企業に勤める成績のいい営業マンで、2人の男の子の父でもある忠さんに異変が現れたのは、2年前のこと。会議や顧客とのアポイントメントを忘れる、見積書の数字を間違えるといったミスが続き、だんだんひどくなっていった。やがて不眠を訴えるようになり、「大事な書類を隠された」と、いきなり部下を怒りだしたり、落ち込んだりするようになったために休職。いったん復職したものの、症状がエスカレートし、昨年末には退職せざるを得なくなった。

 妻の優子さん(仮名、48)は、

「当初はうつ病ではないかと、あちこちの病院を回りました。2軒目の病院でアルツハイマー型認知症と言われたんですが、50歳にもならないので信じられなかった。周りからエリートと結婚したとうらやましがられていたので、現実を受け入れたくなかったのかもしれません」

 何軒目の病院だっただろうか、夫と別の部屋に呼ばれた。医師は、MRI画像で健康な人の脳と、夫の縮んだ脳を並べ、こう告げた。

「もう元に戻ることはありません。いずれ働くこともできなくなります」

 子どももいるのだから、これからのことを考えなければ。優子さんは腹を決めたという。

 この先、不安のひとつがお金のこと。障害年金は申請しているが、受給できたとしても働いていた頃並みというわけにはいかない。住宅ローンは、残り15年。子どもたちは私立中高一貫校の中学2年と高校1年。まだまだ教育費がかかる。正社員になるべく、優子さんは職を探しているが、現実は厳しい。

 NPO「若年認知症サポートセンター」の干場功理事は、現役には高齢世代と異なる特有の問題があるとみる。大きく「家族との関係」「お金」「支援制度」の三つだ。

 配偶者は若くして認知症になるとは思っていないため、病気に気づかず、以前のような生活を無理強いしてしまうことがある。子どもは親の病気を受け入れられず、不登校や引きこもりになることも。「遺伝するのでは」と悩む子もいる。

 病気による収入の減少も、教育費や住宅ローンを抱える世代にとって大きな打撃だ。今まで専業主婦だった妻は、働き手と介護者の役割を同時に担うことになる。干場さんは言う。

「働けない状態は、本人のモチベーションも低下させてしまうんです。同じ仕事は無理でも、単純作業に配置換えするなどして働き続けることが大事。でも日本はそんなに余裕がなくて、認知症になれば大企業の社員でも公務員でも、あっさり切られてしまうのが現実です」

AERA  2014年10月20日号より抜粋