カリフォルニアから来た22歳の名門大学4年生。1日20時間以上をゲームに費やすようになり、自分から「リスタート」にやってきた(撮影/Erik Keefer)
カリフォルニアから来た22歳の名門大学4年生。1日20時間以上をゲームに費やすようになり、自分から「リスタート」にやってきた(撮影/Erik Keefer)

 スマートフォンやコンピューターから離れられなくなってしまう「ネット依存症」。米国にはこのためのリハビリ施設「リスタート」がある。一般住宅を改造したこのリハビリ施設では、ネットのない環境の中で自然に触れたり、グループミーティングを実施。依存症からの脱けだすことを目指していく。

 インターネット依存症の人々は心の深層に問題を抱えていることが多いという。その多くは家庭問題や学校での人間関係だ。両親の離婚やいじめなどがきっかけで、ネットやゲームの世界に逃避する。いわゆる引きこもりとなり、バーチャル世界で知り合った人々と仲間意識を育み、現実の生活では得られない満足を得ようとする。仮想社会に軸足が移り現実を放棄し始めると、自力で抜け出すのは困難だ。

 リスタートでは、ネットやゲームに走ることになった本当の理由を探るためにさまざまな心理カウンセリングを行う。根本の原因が分からなければ、いくらコンピューターから引き離してもまた戻ってしまうからだ。

 クラスになじめずオンラインゲームにはまった高校生。人と会話をすることが苦痛で、それがゲームに逃避する原因になった。現実の人間関係がうまくいかず、ネットで見つけたコミュニティーに救いを求めた人もいる。そこには多くの理解者がおり、ネットにかじりついた。今では、相手を理解する努力が自分に欠けていたことに気付いた。

「SNS上で人々と交わっていると、直接対話する機会が減る。それは人間本来の伝達能力を損ないます」(リスタートの運営者でカウンセラーのヒラリー・キャッシュさん)

 人間は、微妙な言葉のトーンや表情から相手の真意をくみ取る高度なコミュニケーション能力を持っている。「ありがとうございます」という一言にも、声の調子や表情によってさまざまな言外の意味を持たせることができるが、ネットではそれが伝わらない。結果としてそれらを読み取る能力は弱まってしまう。

 とはいえ、ネットはもはや現代の必需品で、今更捨て去ることは不可能だ。新しいツールに従って人間のコミュニケーションも変わっていくのが道理ではないか。この問いに対するキャッシュさんの答えは明快だ。

「ツールを利用することは問題がない。しかし、それが人間本来の、人対人のコミュニケーション能力を発達させる機会を奪うことは避けなければならない」

AERA 2014年7月28日号より抜粋