一方、親のほうは、カラダ半分社会の荒波にもまれているようなわが子に、ハラハラさせられる。
「やりたい気持ちはわかるけれど、普通に青春を送ってほしいという葛藤がある。少なくとも大学生になっていれば……」
 そう話す母・ひろ子さん(44)の胸中は複雑だ。母が0歳から始めた読み聞かせが、息子の思考力や教養の扉を開いた。せがまれて1日10冊読んだこともある。小学校時代はハリー・ポッター、マルクスの『資本論』、スミスの『国富論』と移行。6年生で学校の図書館の本はほぼすべて読破した。本の世界だけではいけない、経験が大事だと、キャンプにも連れ出した。
「社長でも、私にとっては子ども。手を離しても、目と心は離しません」と親心をのぞかせた。

●講演やテレビ出演も

 一方、AMF代表取締役の椎木里佳さん(16)は、「世界の10代を元気に」をモットーに、Tokyo Teens TVの番組制作や女子高生を対象にしたマーケティングを請け負う。また、メロディーの種類が豊富なスマホアプリ「JKめざまし」も制作。現役女子高生起業家として講演やテレビ出演もこなし、昨年は「新入社員くらいの年収」(椎木さん)を手にした。

 父・隆太さん(47)は、「秘密結社 鷹の爪」などの映像コンテンツ制作を行うDLE代表取締役。父娘で社長業を営んでいるが、実績はもちろん父が大きくリード。3月下旬にはアニメ関連企業としては10年ぶりの東証マザーズ上場を果たした。

 ソニーを脱サラしベンチャーの世界で成功した父は、早くから負けん気が強いリーダー向きな娘の性格を見抜いた。私大の付属小学校へ入れ毎朝車で送迎。車中で父が行ったのが、毎日娘の夢を尋ねること。
「大きくなったら何になりたいの?」
 年齢とともに、もしくはその日の気分で答えは変わる。
「花屋さん」「洋服屋さん」「女優」「映画監督」──。
 父にとって、答えは何でもよかった。
「毎日尋ねられれば、私は何をしたいのかと、子どもなりに意識する。夢とか将来とまったく向き合わずに過ごすのと、少しでもイメージするのでは違う。社会教育の一環です」

 父親から毎日問われた里佳さんは、こう振り返る。
「面倒くさくて適当に答えてたけど、夢について考える癖がついた。やりたいことがあまりに多いので会社を作っちゃった」
 父が施した「6歳からのハローワーク」が、起業に至るベースになったようだ。

●父は退職してサポート

 10代起業家のなかで、早くも収益ベースに乗せているのがケミストリー・クエスト取締役社長の米山維斗(ゆいと)さん(14)だ。原子カードを結合させて分子を作って遊ぶ化学カードゲーム「ケミストリークエスト」を小学3年生で開発。累計7万2000部のヒット商品となった。6月には第2弾「ケミストリークエスト入門版 はじめての冒険」が発売される。

 6年生で社長になった米山さんは、1歳で会話が成立、2歳でひらがなやカナ、PC操作をマスター。図鑑を読みあさった、4歳で「サイコロは対面の数字の和が7」を図鑑で理解し自分で展開図を描き組み立てた、小学校低学年で化学記号を覚えたなど、天才伝説に事欠かない。両親は芽を摘まないよう、欲しがる図鑑や専門書を書店や図書館を一緒に回って与えたという。

 さらに驚くべきは、IT系会社員だった父の康さん(50)が2年前に退職してまで息子の事業をサポートしていること。
「親バカかもしれないけれど、息子は凄いヤツ。賭けてみたい」
 期待させたり、ハラハラさせたりと親を揺さぶる10代起業家だが、前出の榊原社長は一層の努力を促す。
「起業家は今後増えるとは思う。幼児期からスマホやiPadを触るようになり、働き方が多様化したため、起業へのハードルが低くなっているのも確か。ただ、海外で10代の成功例はあるが日本では皆無。高校を卒業して注目されなくなった時点で真価が問われる」
 日本の10代デジタル起業家伝説は、始まったばかりのようだ。

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