木村草太(きむら・そうた)1980年生まれ。東京大学助手を経て2006年から首都大学東京准教授(憲法学) (c)朝日新聞社 @@写禁
木村草太(きむら・そうた)
1980年生まれ。東京大学助手を経て2006年から首都大学東京准教授(憲法学) (c)朝日新聞社 @@写禁

 ここのところ頻繁に交わされている憲法論議。首都大学東京准教授で憲法学の専門家である木村草太氏によると、その中で多くの人の間に「誤解」が広まっているという。

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 安倍政権発足後、改憲を視野に入れた憲法論議が再び持ち上がっています。

 憲法については非常に思い入れのある改憲派と護憲派が5%ずつ、残りの9割は無関心層です。改憲論者は「国民の義務規定を広げよう」「天皇を元首にしよう」といった復古的要素を盛り込もうとし、かえって改憲に対するアレルギーを引き起こしている。一方の護憲論者も「9条に手をつけると戦争が起こる」といった感情的な反応に終始しています。この結果、「憲法は思い入れの強い人たちが議論している面倒くさいものだ」と無関心層が拒絶反応を持つことを私は危惧します。

 国際法上、武力行使は自衛権の行使といったいくつかの例外のほかは原則「違法」。従って9条の条文はおかしなことは一つも書いてない。それなのに9条は絶対平和主義、絶対非武装という非現実的な内容だとの「誤解」が広まっている。国際法の教養のない人が多いためだと思います。

 一方、集団的自衛権については私が見る限り、自民党や政府は、日本の自衛のために他国の軍事行動を手伝うことを考えていて、これは個別的自衛権の範囲。集団的自衛権は他国の防衛を手伝う権利なのですが、おそらく(多くの人は)そこまで考えていない。改憲の必要はない議論なのに、「集団的自衛権」という言葉を何かの象徴として使いたい人がいて、議論を混乱させているとしか思えません。

 特定秘密保護法についても、よく「なんでも特定秘密にされてしまう」という批判がありますが、判例上、秘密にしてはいけないものを取材して罰せられたとしても、秘密指定自体が無効扱いになるので刑罰は科せられません。一方、秘密を実際に漏らさなくても対象を処罰できる「扇動」という類型が規定されているなど本当に危険な点は見過ごされています。

 個別の論点について細かく丁寧に議論を積み重ねることが大事。「憲法を変えればすべてOK」といった一発逆転の解決法はありません。

AERA 2014年1月13日号秋元康特別編集長号より抜粋