チェンジのサイトに、多くの運動が並ぶ。既存の団体や組合に所属しない人たちにも「何かを変えたい。どうしたらいいの?」という気持ちがあったと鈴木は分析する(撮影/写真部・大嶋千尋)
チェンジのサイトに、多くの運動が並ぶ。既存の団体や組合に所属しない人たちにも「何かを変えたい。どうしたらいいの?」という気持ちがあったと鈴木は分析する(撮影/写真部・大嶋千尋)

「閲覧制限された漫画を図書館の本棚に戻そう」「臨海公園の自然破壊を防ごう」――。従来は当事者や運動家ががんばっても、実現できなさそうにみえた数々のキャンペーン。これらに、日本全国、いや海外に住む賛同者からも署名を集めて、成功させる仕組みが、米国からやってきた「Change.org(以下、チェンジ)」だ。

 チェンジは、キャンペーンを起こしたい人が、サイトで「開始!」をクリックし、個人や団体が実名で運動を登録。ネットでの拡散により、見知らぬ人からも署名を広く集める仕組みだ。米シリコンバレーで2007年、創立されたが、昨年7月、日本に上陸し、ハリス鈴木絵美(29)が代表を務める。

「私がやらなければ誰がやる」と話す鈴木は、米国人の父と日本人の母を持つハーフ。米アイビーリーグのエール大から、コンサルティング会社マッキンゼーに就職した。その後、オバマ大統領の選挙キャンペーンに加わるなど「成功街道」を進んできたが、少しずつ社会問題に目を向けるようになり、昨年チェンジの日本代表に応募した。しかし、

「あまりにも、アメリカ的な発想で、日本に根付かない理由は100ぐらい思いついた」

 手応えは昨年9月、表れた。ベルギー在住のバイオリニスト堀米ゆず子が、ドイツの空港でバイオリンを押収されてしまった際、友人がチェンジを使って、ドイツから無償返還を勝ち取る。5千人の署名がドイツ大使館に届けられた翌日に返還があっさり決まった。また、同じ頃、ロンドン五輪に参加したサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」が、エコノミークラスでロンドンに飛んだ際、「ビジネスクラスに変更を」と署名が始まり、帰国はビジネスに変更が決まった。

 より広く知られるようになったのは、『はだしのゲン』問題だ。松江市教育委員会が、同書を市内の小中学校図書館で閲覧制限する決定をした後、「原爆がない平和のために子どもが自由に閲覧できるようにして」という運動が始まり、10日間で2万人以上が署名した。松江市に届けられたその日に、制限撤回が決まった。なぜ、日本に根付く兆しがあるのか。

「今まで日本の運動の場は、団体や組合しかなかった。チェンジで、誰もが運動に参加し、変化を起こすチャンスができた」

 と鈴木は分析。既存の市民運動の受け皿には入らない人々が参加し始めたとみる。日本はオンラインでの匿名性が強いのも懸念されたが、「何かを変えたい人々は、本当の強さを持つことも知った」という。

AERA 2013年12月9日号より抜粋