関西の名門、阪急阪神ホテルズが10月下旬、直営8ホテルなど計23カ所のレストランと宴会場で、7年にわたり食材を誤表示していたと公表した。以後、近鉄、東急、小田急など関西、関東の電鉄系ホテル、百貨店から、帝国、オークラ、地方の老舗ホテル、髙島屋、三越伊勢丹などの高級百貨店まで、偽装に手を染めていたことが発覚した。

 ホテル西洋銀座の取締役支配人を4年間務めた武蔵野大学の洞口光由教授は、ホテルで偽装が続発する理由について、「ホテル業界の抱える構造的欠陥のせいだ」と指摘する。ホテルは大きく宿泊部門、宴会部門と、レストランなどを担当する料飲部門に分かれるが、ホテルが力を入れるのは利益率の高い宿泊部門。利益率の低い料飲部門は軽視されがちなうえ、長時間労働で雑務も多く、優れた社員が定着しないという。

 バブル崩壊後、高級ホテルのレストランといえども、価格競争と無縁ではいられなくなった。しかし、メニューも人も減らせない状況では、食材の原価を下げるしかない。そういう中でモラルハザードが起きたのでは、と洞口教授は分析する。

 都内のイタリア料理店のシェフ、濱崎泰輔さんは、ホテル料理人のモチベーションの低さを指摘する。

「年に2~3回、生産地を回るシェフツアーがあったのですが、私の知る限りホテルのシェフで参加した人はない」

 ホテルにシェフとして勤めると最初は雑用ばかりで、店の経営や食材について見識を深める機会は少ない。「独立する」という意欲も削がれ、他のスタッフとコミュニケーションを図ろうという意識も薄くなるのでは、と濱崎さんは推測する。

AERA 2013年11月18日号より抜粋