経営陣は守られたが、「みずほ」ブランドは傷ついた。だが、信用失墜を肌身で感じる現場の行員から、改革の声は聞こえない(撮影/写真部・松永卓也)
経営陣は守られたが、「みずほ」ブランドは傷ついた。だが、信用失墜を肌身で感じる現場の行員から、改革の声は聞こえない(撮影/写真部・松永卓也)

 暴力団融資を放置したみずほが、とかげの尻尾を切るだけの甘い処分を下した。第三者委員会の報告書に、金融庁の元検察官は「隠蔽をうかがわせる表現」があると指摘する。

「こんな報告書で金融庁が納得するとは到底思えませんね」

 金融庁の元検査官は、みずほ銀行から暴力団融資問題について外部調査を委託された第三者委員会の報告書に目を通し、あきれ顔で言った。

「ここなんか矛盾だらけ」

 指し示したのが「金融庁の入検へのみずほ銀行の対応状況」とあるくだり。少し長いが引用しよう。

〈関係者の聴取結果によれば、本キャプティブローンの反社チェックに関しては、オリコの関連会社化当時からコンプライアンス統括部に所属するCが誰よりも詳しく、同人が言うのであれば間違いないと軽信し、実質的には、一担当者に過ぎないCの記憶のみに依拠して回答が行われた。かかる特定の個人の認識や記憶に依存した組織的な対応態勢の欠如が、本金融庁検査における過誤報告を招いたものといえ、みずほ銀行の関係者が、上記コンプライアンス委員会資料中の記載等について、これを殊更(ことさら)秘匿したことを窺わせる事情は認められない〉

 コンプライアンス統括部のベテラン担当者の記憶だけに頼ったため、金融庁に誤った説明をしたというのだ。元検査官は指摘する。

「これは隠蔽をうかがわせる表現だ」

 オリエントコーポレーションの関連会社化は2010年。そのころからコンプライアンス統括部にいた担当者Cは、暴力団融資の報告が頭取まで上がっていたこと、当時の西堀利頭取が解消を指示したことを知らないはずはない。Cは報告書の別のくだりにもたびたび登場する。

「すべて知っているCが自分からウソを言うとは思えない。Cから話を聞いた企画部の検査担当者が、都合良く話をすり替えたと見るのが自然」(元検査官)

 報告書には「Cの記憶のみに依拠して回答」とある。Cがどんな証言をし、誰がそれを聞いて金融庁に報告したのかは書かれていない。

 金融庁は、みずほ銀側の「情報が担当役員止まり」という言い分を鵜呑みにした。それが「頭取まで上がっていた」と一転したので、改めて報告を求めた結果が今回の報告書だが、回答は「担当者の記憶違いでした」だった。元検査官は心配する。

「また鵜呑みにしたら金融庁の権威は失墜する」

AERA  2013年11月11日号より抜粋