結婚と同時に家を出て、30代のときに母の支配から抜け出した。何とか自分の人生を生きられるようになったのだが、母が高齢になるとともに、関わる機会が増えた。

 母と同居する独身の兄は仕事があるため、フリーランスで時間の都合がつきやすい自分に介護が回ってくることが多くなる。母の月2回の通院の付き添いも、直子さんの役割だ。通院日の朝は、あまりに憂鬱でおなかを壊すことも。母は、小児科の前を通るたびに、子どもができない直子さんに、「孫が欲しかったわ」と嫌みを言う。一瞬だけ車いすを持つ手を放すのが、直子さんの精いっぱいの抵抗だ。

「今は、母と会うときは、『防護服を着ている自分』をイメージしているんです。そうして自分の心を守っています」

 介護で心をすり減らさないためにも、心理的な距離は大切だ。

「娘なんだから親を介護しなければ、と考えるとつらくなる。あくまで、自分を優秀なヘルパーだと思い、仕事と割り切って介護したほうがいいでしょう」

 と、カウンセラーの信田さよ子さんは語る。ケアマネジャーの研修講師、高室(たかむろ)成幸さんは、なるべく愚痴を周囲に話すことが大切だという。その際、愚痴は身内ではなく、医療関係者や介護スタッフに吐き出したほうがいい。

「愚痴を話せば、自分の気持ちが軽くなるだけでなく、適切なサービスをアドバイスしてもらえることもあります」

AERA 2013年10月14日号