ドラマ「半沢直樹」で、職場で戦う夫を明るく支える妻・半沢花。良妻を絵にかいたようなデキる嫁、ロンブー淳の妻・香那さん…。「内助の功」「良妻賢母」の市場価値が急上昇している。でもそれ、「素敵な奥さんファンタジー」では? 現実は厳しい。

 広告会社に勤める男性(41)は専業主婦の母親に育てられたため、妻となる女性にも妊娠したら仕事を辞め、子育てが落ち着いてからフリーランスなど家庭重視で働いてほしいという。合コンでは、礼儀や好感度などの「良妻偏差値」を必ずチェックするが、理想の女性にはなかなか出会えない。

 男性からみた理想に違和感を覚える女性も少なくない。自動車会社に勤める結婚5年目の女性(33)は言う。

「仕事での評価がいくら高くても、結婚すれば嫁としての出来で評価されてしまうなんて。淳の妻もただニコニコ従順な嫁キャラで評価されていただけ。彼女の趣味や経歴といった個性は黙殺されていました」

「良妻」を仮想敵にしているのは、専業主婦の妻がいる男性と婚外恋愛中の既婚女性(36)。SNSで彼の妻を突き止め、こっそり投稿をのぞく。

「手の込んだ食事の写真がアップされていると、その材料費の10倍はするディナーを私と楽しんだのよね、と優越感に浸ったり、作ったのは自己顕示のためだよね、と突っ込んだり。彼との交際はもはや、良妻に女として勝てるかどうかの戦いです」

 コラムニストの深澤真紀さんによると、「あの女は演技している」「絶対に離婚する」などと突っ込みながら苦しくなっている女性たちは、「女には女の正体がわかるんだ」という呪いにかかっているという。

「男の現実逃避と女の呪いによって生み出されたのが『デキた嫁』。そんな虚像は意識しなくていいんです」

 個性的な淳は、個性的な女性と結婚しただけ。「半沢直樹」は単なる「時代劇」。他人やメディアが提示する生き方に自分を投影する必要はない、と深澤さん。

AERA 2013年10月7日号