経験の浅い若手選手がほとんど。孫のような年代の選手と接することも増えた。あるスポーツ紙の取材に星野監督は「今の子は萎縮しちゃうから、ワンクッション置いた方がいい」と明かす。そのためにまず選手との距離を意識的に縮めようとした。例えば、選手を下の名前で呼び、ときにはあだ名で呼んだ。

 東京六大学時代からの盟友で、楽天で2011年から2年間、コーチを務めた田淵幸一さん(67)は、星野監督を「気配り、心配りができる人。人の話もよく聞く」と評し、人心掌握術のコツは「個人情報をうまく集めることにある」とみる。中軸打者に成長した銀次と枡田慎太郎の高卒生え抜き野手2人に対する言葉が、田淵さんの印象に残る。

「昨年オフに結婚した銀次には『お前、カアちゃん泣かすなよ』、3人の子どもがいる枡田には『ミルク代稼ぐのは大変だろう』と、うまく相手の事情を絡めて声をかけるんです」

 打撃投手や用具係のスタッフにも積極的に声をかける。時には食事を自腹でおごり、士気を高める。その「情」が、3年かけて若手選手に浸透した。

 就任当初は受け答えすらできなかった若手選手が、今年は監督に、冗談で切り返せるようになった。昨年の秋季キャンプでは、若手投手の戸村健次(25)がノックで「楽勝!」と挑発し、監督を「会話ができるようになった」と喜ばせた。そんな雰囲気の中から、20代前半の選手が続々と主力に育っていった。

「時代に監督が対応しようとしていると思いますね」(山村さん)

 優勝を決めた試合後の祝勝会場では、若手選手から遠慮なくビールをかけられたが、「こんなに選手が喜んではしゃいでくれれば、僕は幸せですよ」と上機嫌。中日時代の教え子、立浪和義さんは、中継を見ながら「僕のころは恐れ多くてビールをかけられなかった」と驚いていた。

AERA 2013年10月7日号