7月、「精子力」(8月12・19日号掲載)の取材で、獨協医科大学越谷病院(埼玉県越谷市)を訪れ、話を聞いた岡田弘教授もちょうど減量中。「1カ月に5、6キロ痩せ、さらに数キロ痩せたい」という目標が私と同じだった。

 岡田先生に、怒らないことが減量にどれだけプラスかを聞くと、「精神を安定させ、ストレスを食欲に直結させないために、よい心がけだ」と聞かされた。新薬の臨床実験では、全く効果のない偽薬を与えた場合でも、症状が改善する「プラシーボ効果」がある。なので、効くと思って飲めば効く場合もある。同じように3キロぐらい痩せてくると、「オレは絶対怒らないから絶対痩せるんだ」という決意に満ち満ちてきた。

 もちろん、怒らないだけで痩せるわけではない。筆者の場合、昨年来、自転車にはまり、週に最低200キロは走っているので、基礎代謝量は、多少は上がっているはずだ。下半身は筋肉がついたので、運動すれば脂肪がどんどん燃える。問題は、脂肪が燃えると体は新たに脂肪を補おうとするような性格があるということだ。ホメオスタシスといって、常に体の状態を一定に保とうとするらしい。

 そこで、これまでと同じように週に1回は食べ放題や飲み放題に行って、「本当はダイエットしてないんだよ」と脳と体を「だます」ことにした。リバウンドが起こるのは、「ダイエットはこんなにつらく、私はよく耐えている」と体や脳が反発するからだと確信するにいたった。成果が出ないとそれがストレスになって体重を戻す、という生活習慣に戻ってしまうのだろう。とにかく、「もう少し辛抱」とか、「歯を食いしばらないと痩せるわけはない」と思うのは、私には全くの逆効果だったと気付いた。

 気持ちのなかで、「リバウンド?それが何か?」とリバウンドへの恐怖を心身ともスルーしてしまう状況に置くのだ。たとえ失敗しても「ダイエットはママゴト、お遊戯にすぎぬ。もしかして仕事と似ているのか?」というシニカルで冷めた見方が自分に味方して追い風となった。

AERA 2013年9月9日号