顧客データや工場の出荷状況といった、様々な物事の動向を示す「ビッグデータ」。このデータを活かして、企業は戦略を打ち出している。
海外向け旅行パッケージを多く扱うエイチ・アイ・エス(HIS)は、他社が蓄積したビッグデータの資産を借りる「コラボ」に力を入れる。
今夏の相手は、ランジェリーメーカーのピーチ・ジョン。今夏におススメする水着や下着から着たい1枚に投票すると、抽選でHISが提供する海外往復航空券などが当たる。極めてシンプルなキャンペーンだが、実は「女性は旅行前に下着を買う」というデータがあり、ピーチ・ジョンの顧客は、HISにとっては見込み客になる。景品などの実費を投じるだけで、重要な顧客データを共有できるのだ。コラボキャンペーンを推進する山岡隆志さんは、こう言う。
「ビッグデータの構築・活用には、うちにないものが他社にはあるという謙虚な気持ちも必要です」
「無印良品」を展開する良品計画は、価値あるデータを利用者から提示してもらう。データ提供の度にマイルがたまるスマホアプリ「MUJI passport」を5月にリリース。1カ月で約50万人がダウンロードした。
無印良品の店舗から半径600メートル以内で、アプリを立ち上げて「チェックイン」すると、利用者情報と位置情報が登録され、10マイルがもらえる。データを分析すれば、利用者の通勤経路や休日のお出かけ先など、行動半径が見えてくる。
「住所より価値のある行動半径を知ることで、より利用者に寄り添った提案ができる」と、WEB事業部長の奥谷孝司さん(41)は話す。
このアプリに引き継がれているのが、良品計画が運営する口コミサイト「my MUJI」の思想。このサイトは、販売が終了した商品がファンの声によって復活するなど、「思いを届けたい」利用者に対し、丁寧に「思いに応える」企業の交流の場だった。アプリとの相乗効果で、口コミも約8倍に増えた。
「過去に培ったお客様との『絆』という資産が、さらなるデータを生んだ」
アプリのデータ解析を担当するネットイヤーグループの中島直樹さん(38)は、そう語る。
※AERA 2013年7月22日号