コミュニティーデザイナー 山崎亮(39)バブル時代は、動かした金額の大きさだけでプロジェクトの成否をはかる風潮があったともいう。「社会的な意識のある人にお金が回ればいいんですが、今はまだそういう人は少ない」(撮影/高井正彦)
コミュニティーデザイナー 山崎亮(39)
バブル時代は、動かした金額の大きさだけでプロジェクトの成否をはかる風潮があったともいう。「社会的な意識のある人にお金が回ればいいんですが、今はまだそういう人は少ない」(撮影/高井正彦)

 アベノミクスは歓迎する声があがる一方で、複雑な思いを抱く人がいたりと、受け取り方はさまざまだ。

 経済エッセイ『僕の小規模な経済学』を出版した漫画家の福満しげゆき(36)は、こう胸のうちを明かす。

「お笑い芸人に異常に高価なものを買わせるとんねるずの番組を見ても笑えるのが僕たちの世代。バブル時代に若干でもノスタルジーを感じてしまうので、携帯やネットが発達して今の方が便利だと言われても、あの時代を美化してしまいますね」

 かすかに残像が残るバブル時代に憧れを持つ人もいる。だが、一方で、就職氷河期という理不尽に直面したことで、「失われた20年」の間にお金に代わる新たな幸福感や価値観を必死で模索してきた若い世代は、アベノミクスに複雑な想いを抱く。

「我々の世代が作り出してきた価値観が、アベノミクスの流れで変容してしまうんじゃないかと思うと、怖いんです」

 コミュニティーデザイナーの山崎亮(39)は、そんな言葉で違和感をあらわにする。

 バブル後に社会に出て、不景気しか体感していない世代。山崎はそんな自分たちの世代を「不景気ネイティブ」と呼ぶ。地産地消、きずなの重要性、環境重視…1970年代から続いた経済成長に基づいた価値観に終止符を打ち、「カネやモノだけが豊かさの条件ではない」ということに本当に気づきはじめた世代でもある。

 大学でデザインを学んだ山崎が2005年に設立した「studio-L」は、いわゆる「地域おこし」を次々と手がけて成功させている。以前のハコモノやお仕着せのイベントに頼ったものでなく、山崎とスタッフが地域に入り、多くの住民と議論して、人のつながりをもとに地域を再生させるという、まさに地域のあり方をデザインする手法だ。

「『バブルの頃なら5千万とか1億円は取れた』と言われるような案件を数百万円でやってますが、それが普通ですから」

(文中敬称略)

AERA 2013年5月6日・13日号