気になることがあればすぐに調べることができる、ネットの検索エンジン。ただ便利な一方で、私たちの記憶力に思わぬ影響も及ぼしているようだ。
米コロンビア大学の心理学者ベッツィー・スパロウ氏は2011年、「グーグルが記憶に及ぼす影響」と題する論文を発表した。被験者にある文章を読ませ、後でその内容をどれほど覚えているかテストしたところ、「その文章が後でネットなどで確認できる」と知らされたグループは、そうでないグループに比べて、明らかに成績が悪かったという。要は人間の脳は、自分で覚えなくても誰かに聞けば教えてもらえる事象については、記憶しようとしない、ということだ。
でも、それは必ずしも悪いことではないのかもしれない。思えば、人類の歴史は、脳内の知識をいかに外部記憶装置に移し、他人と共有し、次世代に残していくか、という課題への挑戦だった。私たちは今、ネットという新しい、膨大な容量を持つ外部記憶装置とつながっていく歴史的な進化の瞬間に立ち会っているのだ。
『自分はバカかもしれないと思ったときに読む本』(河出書房新社)などの著書があるサイエンス作家の竹内薫さんは、
「人間の脳に閉じこめておける情報の量には限界がある。自分の脳が単なるCPUに成り下がってしまうのが寂しい、怖いという気持ちは理解できますが、ネットを脳の延長、外部記憶装置と考えれば、検索エンジンを使ってそれをフル活用するのが現代人の当然の知恵、と言えるでしょう」
さらに、これからの世界は、グーグルのような一部の「情報の作り手」と、ただ膨大な情報を、しかもしばしば操作された情報のみを与えられて、グーグルに儲けさせるだけの人々に分かれるだろうと指摘する。
「後者にならないためには、数学と英語を勉強すること。アルゴリズムを理解し、日本語の検索では出てこない英語の元サイトに当たる力が必要です」
※AERA 2013年4月8日号