インターネット犯罪の捜査を撹乱する遠隔操作ウイルスが出現した。「なりすまし」犯行で、知らぬ間に、あなたも「容疑者」になりかねない。

 インターネット上で犯罪予告を書き込んだとして犯罪者扱いされた2人は、「身に覚えがない」 と一貫して「冤罪」を訴えていた。

 別の人間による「なりすまし」とわかり、容疑者から一転、被害者となったのはアニメ演出家の北村真咲さん(43)と、三重県に住む28歳の男性。北村さんは、大阪市のホームページに殺人予告を書き込んだとして大阪府警に逮捕、起訴された。男性は、掲示板サイト「2ちゃんねる」に伊勢神宮を爆破すると予告する書き込みをしたと疑われ、三重県警に逮捕された。

 2人のパソコンはいずれも「iesys.exe」(アイシス)というファイル名の遠隔操作ウイルスに感染していたことが、後にわかった。

 とんだ濡れ衣だったわけだが、警察が逮捕に踏み切ったのは「ネット上の住所」と呼ばれるIPアドレスから、書き込みの発信元が2人のパソコンだったことを割り出したためだ。

「IPアドレスという確証がある」

 府警や大阪地検は北村さんにそう迫ったという。

 だが2人のパソコンは、単に「踏み台」にされただけだった。ある捜査関係者は、拙速な逮捕だったと指摘する。

「容疑者が否認していたにもかかわらず、IPアドレスだけで逮捕や起訴に踏み切るのは、非常に危ない橋だ。府警はなぜそこまでしてしまったのか」

 詰めの甘い捜査だったことは間違いない。とはいえ、IPアドレスからの容疑者絞り込みは、これまではネット犯罪における有力な捜査手法の一つだった。今後はIPアドレス頼みが通じない。遠隔操作ウイルスによる犯行は、複数のコンピューターを経由させるので、実際に書き込んだ真犯人を特定するには時間を要する。ネットセキュリティーに詳しい関係者が言う。

「新種のウイルスは1.5秒に一つ発生する時代。犯罪は複雑化する一方です」

AERA 2012年10月22日号