作家の村上春樹さんが朝日新聞に寄稿したエッセーが中国で話題になっている。東アジアの領土をめぐる問題について、文化交流に影響を及ぼすことを憂慮してた内容で、日本関係の書籍が中国の多くの書店の売り場から姿を消す事態になったとの報道に触れ、ショックを受けたことなどを明かした。

 村上さんの作品は中国でも非常に人気がある。1989年に『ノルウェイの森』が翻訳されて以来、30冊以上が翻訳出版され、『1Q84』は初版で120万部という大ベストセラーとなった。今回、エッセーを読んだ人たちから出た反響はまず、日本と中国という国の違いを超えた、人間としての共感だった。

「今日、村上春樹が発表した文章を読んで涙が出た。みんな読んでくれ。文化に国境はない!」

「村上さん、何も心配することないよ。政治は政治、文化は文化。庶民は心の中でははっきりわかっているし、何をボイコットすべきで、何をすべきでないかもわかっているよ」

 領土問題をめぐる日中間の緊張について、率直な考えを表明しない自国の作家たちへの批判も多く見られた。

「日本の作家の思想レベル、発言のレベルを見よう。国内のバカ野郎たちは、(村上春樹に)比べたら粉々のクズだ」

「中国の大部分の作家は、俗に媚び、権力に媚び、金に媚びている。こんな作家はノーベル賞から1千万里も離れている」

 多くの村上作品の中国語訳を手がけた翻訳家がネット上で、「民族の大義」のため、日本関係の書籍が書店から撤去されるのを支持したとも受け止められる発言をした。これをきっかけに、この翻訳家の作品を「ボイコットする!」と若者が次々に表明する動きが広がるという「事件」も起きた。さらには、批判の矛先を当局の政策に向けた書き込みまで出現した。

「文化の交換は『我々はたとえ話す言葉が違っても、基本的には感情や感動を共有しあえる人間同士なのだ』という認識をもたらすことをひとつの重要な目的にしている(という村上さんの)この言葉、某国の怨恨教育と比べたら、まったく」

AERA 2012年10月15日号