父の仕事の都合でイランに生まれ、小学校時代の大半をエジプトで過ごした。しかし、生み出す作品はどこまでもドメスティックで人間臭く、温かい。

「カイロでは、肌の色も違うし、自分が異分子だということをどうしようもなく植えつけられた。だから、受け入れられるとめちゃくちゃうれしかった」

「そのままでいい」エールは、そんな経験から生まれた。最新作『ふくわらい』もそう。主人公はマルキ・ド・サドをもじって名付けられた鳴木戸定(なるきどさだ)。あらゆる人をありのまま受けとめ、その影響を受けて自らも少しずつ変化していく。そんな定は西さんの、「理想のヒロイン」だ。

 執筆に行き詰まったときは、「歩きます。汗だくになって空っぽになるまで」

 空っぽになった器に、また多くのものを受けとめていく。

AERA 2012年10月1日号