このようなごみ収集の実態があるが、清掃行政が機能しなくなると普段の生活が立ち行かなくなるにもかかわらず、収集サービスの提供を受ける私たちは積極的に自治体の清掃行政を知ろうとはしない。知る機会をなかなか得られないことでもあり、日々の忙しさのあまり詳細の把握は後回しになる。しかし、昨今の社会状況がそれを許さなくしている。新型コロナウイルスや地震や大雨等の自然災害の不測の事態が頻発するようになり、当たり前の生活が続くとは限らない状況になってしまっていることに鑑みると、不測の事態を想定し、清掃行政の今後のあり方をサービスの受け手側から議論していく必要が生じているといえる。自治体の中で災害時に機動的に動くことができる要員は、消防とごみ収集部門の職員であるので、私たちが安心・安全に暮らしていくために、公共サービスの提供体制のあり方を議論する時期に来ている。

 本書では、清掃の現場の全てを描くことはできなかったが、清掃サービスの提供がどのようになされているか、また、清掃従事者がどのような思いで住民に公共サービスを提供しているかを記した。また、そのような清掃従事者の思いにもかかわらず、自治体の財政難から行政改革の一環として、清掃の実施体制は民間委託への切り替えが進められ、直営で提供するサービスは少なくなっている状況も述べている。このことを把握した上で、読者の皆さんの居住する自治体の清掃行政がどのような形で運営されているかを是非調べて頂きたく思う。果たしてそれは想定外の事態が発生した際にも継続して機能する体制になっているのだろうか、迅速な初動対応がなされ事態がスムーズに収拾されていくような体制になっているのだろうか、清掃従事者は何を考え住民とどのように接しているのであろうか。それらを知るための一助として本書を活用して頂ければと思う。

 本書の中では、私の東京都北区での清掃体験、地方自治体の行政改革、清掃差別、女性清掃職員の活躍、LGBTの街として有名な新宿二丁目がごみの無法地帯から住民、ゲイバーママたち、行政、業者の協働により街の美化が推進されていった過程、産業廃棄物の処理や業界で推進されるDXについても取り上げ、私が近年の清掃事業の調査で知りえたこと全てを記している。本書を通じて読者の皆さんの清掃事業への理解が深まっていくことを願っている。