『ごみ収集とまちづくり 清掃の現場から考える地方自治』
朝日選書より発売中

 私は2015年に45歳で学者に転身し、2016年から清掃行政の研究を始めた。清掃車に乗務され廃棄物行政を研究された早稲田大学の故寄本勝美先生の影響を受け、自らもリアリティ溢れる研究をしてみたく思っていたので、全日本自治団体労働組合(自治労)さんのご尽力によりごみ収集の現場に入れてもらえるチャンスを頂いた時には、直ぐに飛び込んでいった。しばらく現場で作業に携わっていると、ごみがどのように処理・処分されていくかや、そこで業務に携わる人々の仕事への思いが分かりだした。そして、清掃事業の奥深さや面白さに魅了され、ごみの現場で情熱を持って働く皆さんとの出会いを楽しみながら、当事者の視点で清掃行政を研究していくようになった。

 その中でもごみ収集は、住民からまだ遠いところにあるようで、「誰でもできる単純な仕事」であり「業者に業務委託する方が良い」と誤解されているようである。しかし実際に作業を体験してみると、そうではないと理解できる。

 本書の中でも述べたが、ごみ収集は端から見ればごみを清掃車に積み込むだけのように見えようが、その収集する動作の中には様々なノウハウがあり、素人が一朝一夕で真似できるものではない。刻々と変化していく現場状況や突発的な事案に合わせ、限られた清掃リソースをどのように活用し担当地区全体のごみを漏れなく収集していくかは頭脳労働に値し、緻密な計算のもとに業務が遂行されている。また、収集作業で事故が発生せぬように安全な作業手順を追求し、日頃からその実践を心掛けている。さらには、効率的に漏れなく迅速にごみを収集していくためには、区域全体の地理の理解、複雑な収集ルートやごみ集積所の位置の把握等、現場に応じた膨大な業務知識が必要となる。このように、ごみ収集には、収集技術面、安全性、収集現場の理解といった要素が業務遂行のための基本的な知識として求められるため、単純作業であるとは全く言えない。

 また、私が出会った現場の方々のほとんどは、清掃従事者を見下げる住民がいる中でも、自らの仕事にプライドを持って取り組み、質の高い公共サービスを提供しようと奮闘しておられた。コロナ禍で感染リスクを負いながらも使命感を持ち通常どおりの収集サービスを提供しているが、そこには徹底した自己管理があり、万全な体制を整えて業務に臨むといったプロ根性が存在する。

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