この間の動きを別の角度から眺めてみれば、決済の盟主交代劇の様相が浮かび上がってくる。これまで決済の主役は、VISAなどの国際ブランドといわれるクレジット会社が担っていたが、これがIT企業に取って代わられるというものだ。iTunesストアが音楽業界を席巻したそれと同じことが、決済の世界でも起こるかもしれない。

 1993年、私はVISAインターナショナルのチャールズ・T・ラッセル会長(当時)にインタビューする機会を得た。VISAの将来に関する私の問いに対してラッセル会長はこう答えた。「我々のライバルは通信事業者であり、コンピュータ関連企業だ」

 正直私はまったくピンとこなかった。しかしあれから四半世紀を経て、ラッセル会長の予言は現実のものとなった。アップルペイはモバイル決済のスタンダードとしての地位を固めつつあり、ライバルのグーグルは、アンドロイドペイでその後を追う。もちろんVISAも指をくわえて眺めているだけでなく、NFCを利用した「ペイウェーブ」という決済サービスの普及を図っている。いまや業界は「決済三国志」とも呼ぶべき熾烈な競争時代を迎えたのだ。そしてそのキープレーヤーの立場にあるのがSuicaであることは、まぎれもない事実だ(ちなみに、アンドロイドペイにいちはやく参加した楽天の動きも気になるところだ)。

 さて、かくしてSuicaにようやく世界進出の第一歩が記された。2017年4月以降に出荷されるNFC搭載スマートフォンのグローバルモデルには、フェリカ実装が義務づけられる見通しだ。世界共通の交通乗車カード/電子マネーとしてSuicaが使われる可能性は大いにある。世界に「Suica経済圏」が確立される。

 私はこんな未来図を思い描いている。2020年夏、東京オリンピックを見るために世界各国から日本を訪れた観光客たちが、空港の銀行窓口に行列をつくることなく、自分のスマートフォンを手に改札を通って目的地に向かう。喉が渇いたといえば、自動販売機にかざして飲み物を買う。それは決して夢物語ではない。