誰もが何度でもやり直せる社会を――。著者がホームレス支援活動を通じて見つけた答え

2021/12/15 20:00

『14歳で
『14歳で"おっちゃん"と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」』川口 加奈 ダイヤモンド社


 世間からドロップアウトした人に対して、「これまで努力しなかった結果なのではないか?」「働きたくなくてただ怠けているだけなのではないか?」と考える人は、少なからずいるでしょう。『14歳で"おっちゃん"と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」』の著者である川口加奈さんもそのうちのひとりでした。
 しかし、中学生だったあるとき、ひょんなことから大阪の日雇い労働者の街「釜ヶ崎」での炊き出しに参加した彼女は、"ホームレスのおっちゃん"と実際に話し、その考えが間違っていたことに気づきます。単に怠惰で仕事が長く続けられないのではなく、「選択肢のある環境にいなかっただけなのかもしれない」(本書より)と。そして、ひとつの問いが心に芽生えます。「そもそも、なぜホームレスのおっちゃんたちには『やり直す』チャンスがまったく用意されていないんだろう」。
 本書は、14歳にしてこの問題に気づいた川口さんが、その後の15年間をかけ、「失敗しても誰もが再挑戦できる仕組みのある社会」を目指すべく、ホームレス問題に取り組んできた道のりを記したエッセイです。
 ホームレスからの脱出には、「仕事」「貯金」「住まい」の3つを手にすることが必要だと川口さんはいいます。しかしそれぞれは相関しているため、貧困から抜け出せない負のトライアングルに陥ってしまうと、自力で路上から抜け出すことは不可能に近いのだそうです。
 そこで、川口さんが考えたのが段階的に「住まい」「仕事」貯金」を得ながら社会復帰できるような仕組み。19歳のときに学生仲間とNPO法人「Homedoor」を立ち上げた川口さんは、まずホームレスの人たちに仕事の提供を行うことを考えます。そこで思いついたのが、ホームレスと放置自転車という2つの課題を解決する画期的なビジネスアイデア。ホームレスの人の7割が得意とする自転車修理技術を活かしたシェアサイクル「HUBchari(ハブチャリ)」事業です。
 最初は大阪の行政や民間企業に働きかけても、共感や協力を得るのが難しく断られてばかりでした。また、大学生3人で続けていた「Homedoor」も2人が抜け、最終的には川口さんひとりになってしまいます。そんな逆境のなかで、川口さんを助けたのは人と人とのつながりでした。
 起業塾やビジネスコンテスト、ハブチャリ事業などで出会ったさまざまな経営者や、その後をともにする新たな仲間、そして、なんといっても大きな支えとなったのが"ホームレスのおっちゃん"たちです。川口さんがおっちゃんたちを雇用し、支援しているはずなのに、温かな言葉がけや想像を上回る仕事ぶりに川口さんのほうが支えられ、彼らに感謝する場面が本書に何度も登場します。
 ハブチャリ事業が軌道に乗り、2018年からはビル1棟を借り上げた18部屋の個室型宿泊施設「アンドセンター」の運営もスタートさせた川口さん。そこでの相談者の数は年々増えており、その属性が多様化してきているといいます。
「雇用は流動化し、あらゆることが不確実になった現代では、誰もがふとした瞬間に転落してしまう可能性を持っている」(本書より)
 だからこそ川口さんは「やはり『誰もが何度でもやり直せる社会』をつくる必要がある」と言います。「ホームレス問題は自己責任」と言葉で切り捨てずに済む社会の実現に向けて、私たちが身近にできることは何か。本書を読めば、川口さんと同じように考えずにはいられなくなるかもしれません。
[文・鷺ノ宮やよい]

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