ビールがなければピラミッドは建たなかった!? 歴史的事件・文化の影にあった"飲み物"とは

2021/09/16 20:00

『歴史を変えた6つの飲物 ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、茶、コーラが語る もうひとつの世界史』スタンデージ,トム,崇嗣, 新井 楽工社
『歴史を変えた6つの飲物 ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、茶、コーラが語る もうひとつの世界史』スタンデージ,トム,崇嗣, 新井 楽工社


 普段何気なく口にしている炭酸飲料やアルコール類などの飲み物。たとえば仕事終わりにビールをグイっと煽り、なんとも言えない爽快感を得るという人は多いはず。日常生活と密接につながる飲み物だが、これまで人類が歩んできた"歴史"と重ね合わせて考えたことはあるだろうか?
 そこで今回注目したのは、トム・スタンデージの著書『歴史を変えた6つの飲物 ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、茶、コーラが語る もうひとつの世界史』。歴史に残る文化・大事件の影には常に飲み物の存在があったという観点から、人と飲み物の1万年史を紐解いた1冊だ。
「飲み物は一般に考えられているよりも密接に歴史と結びつき、人類の発展に大きな影響を与えている。(中略)本書で取り上げた六つの飲み物の歴史には、異なる文明間の複雑な相互作用と、異文化同士の相関性が証明されている」(本書より)
 スタンデージが第1部で掲げたのは、「メソポタミアとエジプトのビール」。ビールと聞けば近年誕生したイメージを抱くも、実は紀元前4000年頃のメソポタミアの絵文字には2人の人物がアシのストローで"かめ"からビールを飲む図が見られる。気の遠くなるほどはるか昔から吞兵衛がいた可能性を考えると、なんだか微笑ましくなってしまう。
 スタンデージによれば、ビールの起源を明らかにする記録は残されていない。一方で、ビールは発明されたものではなく、発見されたものだと明言している。ポイントはビールの原料となる穀物。麦芽化した穀物が"甘くなる"ことと、大麦麦芽を数日間置いた"かゆ"は飲む者を"軽く心地よくさせる"ことに人類が気づいたのだ。
 ビールをめぐる歴史の中で、"労働の対価"としてビールが用いられたという例をここで挙げたい。スタンデージが紹介したのは、なんとエジプト・ギザに建つピラミッド。
「ピラミッド建築に携わった労働者の賃金はビールだったと、彼らが食事と睡眠を取ったとされる近くの町で発見された史料に書かれている。ピラミッドが建築された紀元前二五〇〇年頃、労働者に対する標準的な配給はパン三~四斤と、かめ二つ分(約四リットル)のビールだった」(本書より)
 古代エジプトにビールがなければピラミッドも存在しなかったかもしれない可能性を考えると、普段飲んでいるビールが一層おいしく感じる......かも。
 続いては第4部で取り上げられた「理性の時代のコーヒー」を見てみよう。新合理主義がヨーロッパへ広がると同時に、コーヒーも"新種の飲み物"として普及。17世紀のヨーロッパ社会に大きな衝撃を与えることになったという。
「アルコールの代わりにコーヒーを飲むと、軽く酔ったくつろいだ状態ではなく、きりりと冴えた頭で一日を始められたため、仕事の質も能率も格段に向上した。そのため、コーヒーはアルコールと正反対のものと見なされるようになる」(本書より)
 現代では当たり前のように飲まれているコーヒーだが、17世紀の時点で頭の"覚醒"をもたらす飲み物として認知されていたのは興味深い。当時のヨーロッパでも、現代に通じる仕事人がコーヒーを片手にあくせくと作業していたのだろうか。
 そもそもコーヒーを飲む習慣が最初に普及したのは、15世紀半ばのイエメンではないかとされている。アラブ世界へ浸透するにつれてコーヒーが肉体にどのような影響を与えるかが議論の的になり、人を酔わせる効果からアルコール類と同じく宗教上の禁忌にあたると主張するイスラム教徒学者も出現。コーヒーが"被疑者"となり、裁判にもかけられたというのだから驚きだ。
 そんな紆余曲折を経たコーヒーは、18世紀のフランスで起きた歴史的象徴の影にもあった模様。実はフランスのコーヒーハウスでは、流通する情報が政府の厳しい目にさらされ、国家の悪口を言う者は投獄される可能性があったという。やがて世情が不安定になり、財政危機の解決にも失敗。政権内で唯一信頼できる人物と考えられていた財務長官ジャック・ネッケルが罷免されたことで、人々の緊張はさらに高まっていく。そんな状況の中、民衆の前で演説をおこなったのが弁護士カミーユ・デムーランだった。
「デムーランはカフェ・ド・フォアの外のテーブルに飛び乗ると、拳銃を振りかざして『武器を取れ! 民衆よ、さあ武器を取れ!』と叫んだ」(本書より)
 デムーランの演説こそ、歴史に名を残す"フランス革命"の始まり。よもやカフェを起点に革命が起きるとは、誰も想像できなかっただろう......。
 「まさかそんな繋がりがあったなんて」と思わず声を出したくなる、飲み物と歴史的事件・文化との関係。いまあなたが傾けているグラスやカップの飲み物も、今後の歴史に名を刻む出来事の一端を担っているかもしれない。

あわせて読みたい

  • カップ一杯のコーヒーに、ロマン溢れる歴史が潜む?

    カップ一杯のコーヒーに、ロマン溢れる歴史が潜む?

    BOOKSTAND

    12/6

    アイスコーヒーは日本発祥の飲み物だった!?その歴史をひも解きます

    アイスコーヒーは日本発祥の飲み物だった!?その歴史をひも解きます

    tenki.jp

    4/18

  • 寒い冬には何を飲む?ホットドリンクから見えてきた異国文化

    寒い冬には何を飲む?ホットドリンクから見えてきた異国文化

    tenki.jp

    11/27

    気合入れるとき・失敗したとき・眠いとき…仕事中に飲むべきものは? コーヒー・紅茶・緑茶の使い分け術

    気合入れるとき・失敗したとき・眠いとき…仕事中に飲むべきものは? コーヒー・紅茶・緑茶の使い分け術

    AERA

    2/22

  • 文豪たちも愛した

    文豪たちも愛した"銀ブラ"の起源ともいわれる、老舗珈琲店とは?

    BOOKSTAND

    7/20

この人と一緒に考える

コラムをすべて見る

コメント

カテゴリから探す