日本犯罪史に残る企業脅迫事件! 関係者や被害者への緻密な取材から全貌を解き明かす

2021/05/10 20:00

『キツネ目 グリコ森永事件全真相』岩瀬 達哉 講談社
『キツネ目 グリコ森永事件全真相』岩瀬 達哉 講談社


 現在40代以降であれば、心の片隅に残っている人も多いだろう「グリコ森永事件」。1984年から1985年にかけて、「かい人21面相」と名乗る犯人が、グリコ、森永をはじめとする日本の食品会社を脅迫し、大金を奪おうとした一連の事件です。青酸が混入されたお菓子がコンビニやスーパーにばら撒かれたことから、一般消費者に大きな恐怖と混乱を与えました。
 岩瀬達哉氏の著書『キツネ目 グリコ森永事件全真相』は、この「グリコ森永事件」の真相と、犯行グループの中心人物とされる「キツネ目の男」の実像に迫った一冊です。
 これまでも同事件をまとめた本は何冊も出ていますが、本書の特筆すべき点は、徹底して数多くの関係者にインタビューをおこなった点です。それにより、犯人グループと警察との攻防が圧倒的臨場感をもって浮かび上がってくるのです。同事件では死者こそ出なかったものの、キツネ目の男の冷酷さ、執拗さによって人生の歯車を狂わされた者がいかに多かったか、本書を読むと改めて気づかされるでしょう。
 たとえば本書では、通称「寝屋川アベック事件」の被害者男性に詳しく話を聞いています。この男性は、デート中にかい人21面相に襲撃され、恋人を人質にとられ、グリコが用意した金を受け取ってくるように指示されるという被害に遭いました。事件後は、思い出すたびに一種のパニック状態に陥り、深い悔恨から恋人とも別れることになったといいます。
 捜査に携わっていた警察関係者の中にも犠牲者は存在します。ノンキャリアながら名を上げていたという滋賀県警本部長の山本昌二氏は、焼身自殺によって人生の幕を下ろしました。これはかい人21面相を取り逃したことへの自責の念からだという見方が大きいそうです。
 
 また、この事件では企業の対応も大きく問われることになりました。ハウス食品に脅迫状が届いた際、社内では警察に届けないほうがよいという声もあったそうです。しかし、二代目社長だった浦上郁夫氏は「かりに裏取引をして、それが表に出たときには社会的信用をなくしてしまう。やっぱり、ビジネスの本質は、人の心に対し、組織としてご恩になったことにお返しをする。これは時代が変わっても大事なことと違うか。正道を歩こうやないか」(本書より)と判断し、警察に届けることを決めたといいます。ちなみに浦上氏は翌年8月に日本航空123便墜落事故で亡くなったそうで、これも昭和という時代を実感させるエピソードかもしれません。
 けっきょく147通にもおよぶ膨大な脅迫状、600点以上もの遺留品を残しながら、「くいもんの 会社 いびるの もお やめや」という終息宣言を一方的におこない、その後はぴたりと動きを止めた犯人グループ。女性や子どもなど少なくとも6人はいたと推測されており、司令塔だったキツネ目の男は今では70代になっているといいます。
 残念ながら事件はすでに時効を迎えていますが、日本社会に恐怖と不安を与えた凶悪犯罪を風化さないためにも、本書を読んで詳細を振り返るのは意義のあることと言えるでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]

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