【「本屋大賞2021」候補作紹介】『この本を盗む者は』――呪いを解くために本の世界へ。本嫌いな少女の冒険ファンタジー 〈BOOKSTAND〉|AERA dot. (アエラドット)

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【「本屋大賞2021」候補作紹介】『この本を盗む者は』――呪いを解くために本の世界へ。本嫌いな少女の冒険ファンタジー

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『この本を盗む者は』深緑 野分 KADOKAWA

『この本を盗む者は』深緑 野分 KADOKAWA


 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2021」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、深緑野分(ふかみどり・のわき)著『この本を盗む者は』です。

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 本作の舞台となるのは、角のまるい菱形をした「読長町(よむながまち)」。その真ん中に建つのが、地下二階から地上二階までの巨大な本の館「御倉館(みくらかん)」です。主人公の女子高校生・御倉深冬(みくら・みふゆ)は、これらの本を蒐集(しゅうしゅう)していた御倉嘉市(みくら・かいち)のひ孫であり、御倉館は現在、深冬の父・御倉あゆむが管理人を務めています。


 ある日、御倉館を訪れた深冬は、眠っている叔母・ひるねの手に紙のようなものが握られているのを目にし、ゆっくりと引き上げてみます。そこに書かれていたのは「この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる」という言葉。そして突然、深冬が通う高校と同じ制服を着た少女・真白が現れたのです。


 真白が言うには、御倉館の本が盗まれたことで「ブック・カース(本の呪い)」が発動したとのこと。そして「信じて。深冬ちゃんは本を読まなくちゃいけない」(本書より)と告げるのです。


 深冬が真白に渡された本『繁茂村の兄弟』を読んでいくと、驚くべきことに、まるで浸食されるかのように御倉町は物語の世界へと姿を変えてゆきます。これこそがブック・カースの威力。御倉館の書物23万9122冊のうち1冊でも外に持ち出されると、この呪いが発動してしまうのです。そして、本を盗んだ泥棒を捕まえ、本を取り戻さない限り、もとの御倉町に戻ることはないというのです。


 このからくりを知った深冬は、盗まれた本を取り戻すため、真白とともにさまざまな本の世界を冒険します。そこで出てくるのが、いろいろな手法で書かれた書物の数々。第一話「魔術的現実主義の旗に追われる」では日常と幻想が融合するという『マジックリアリズム』、第二話「固ゆで玉子に閉じ込められる」では「固ゆで」の名前のとおり『ハードボイルド』、第三話「幻想と蒸気の靄に包まれる」ではSFのスタイルのひとつである『スチームパンク』。


 ジャンルも文体もまったく異なるこれらの小説を読み進めることで、私たちもまた深冬と一緒に本の世界を冒険しているかのような感覚を味わえます。この没入感は本書の大きな魅力のひとつといえるでしょう。


 実は深冬は、本好きの家系でありながら、本が大嫌い。その理由は、子どものころに厳格すぎる祖母・たまきに本を読むことを強要されたからであり、ブック・カース自体も蔵書を本泥棒から守ろうとするたまきが仕掛けたものでした。本嫌いだった深冬が、この呪いを解こうと本を読むうちに、読書の楽しさに気づいていくという心理的な変化も注目です。


 さらに、叔母・ひるねはなぜ寝てばかりいるのか、真白はいったいどのような存在なのか、ブック・カースが発動したときに深冬が読むべき本はどのように選ばれているのかといった謎解き要素も盛り込まれています。すべての謎が解ける終盤の展開、そしてそこから導かれるラストの描写が秀逸で、著者の才能の豊かさに驚かされます。


 本を通して本を読む楽しさに気づかされる。この本を読む者は、そんなワクワクするような読書体験を深冬とともに味わうことでしょう。


[文・鷺ノ宮やよい]


(記事提供:BOOK STAND)

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