1886年、東京に生まれ、『刺青』『痴人の愛』『春琴抄』『細雪』などをはじめとする多くの文学作品を世に送り出してきた、作家・谷崎潤一郎。その生誕130年を記念し、中央公論新社の特設サイトでは、2015年5月から毎月1名の作家が谷崎文学の世界をマンガにて表現しています。



 榎本俊二、今日マチ子、久世番子、近藤聡乃、しりあがり寿、高野文子、中村明日美子、西村ツチカ、古屋兎丸、山口晃、山田参助という、総勢11名の錚々たる顔ぶれの作家たちが、谷崎文学にオマージュを込め、それぞれの筆致でその世界観を描写し、話題を呼びました。



 このたび刊行された『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』は、それらの連載を一冊の本にまとめたものです。



 さまざまな観点から楽しむことのできる本書ですが、"谷崎と女性"という視点から眺めてみると、谷崎自身の波乱に富んだ女性遍歴を描いたのは、久世番子さん。29歳のとき、当時20歳だった千代と結婚したものの、千代の妹であり自由奔放で西洋的な肢体と美貌を持つ、15歳のせい子に夢中になる谷崎。千代と子どもを父宅に預け、自身はせい子と同居。そんな時期に書かれた民話風の作品『人間が猿になった話』を西村ツチカさんが描きます。



 また、せい子をモデルにしたナオミという女性を登場させ、"ナオミズム"という流行語をも生んだ作品『痴人の愛』を描いたのは、今日マチ子さん。



 さらに谷崎は、自身が脚本を担当した『アマチュア倶楽部』において、せい子を女優デビューさせるなど映画製作にも没頭。この経験を活かし、映画に材をとった小説を綴りました。そのひとつ『青塚氏の話』を榎本俊二さんが描きます。



 しかし、谷崎はせい子と結婚することはなく、1931年、古川丁未子と結婚。その結婚生活も長くは続かず、2年後には別居。後に3人目の妻となる根津松子との関係を急速に深めていきます。そんな時期に書かれた『陰翳礼讃』を描くのは高野文子さん。



 そして、その松子の連れ子・清治の妻となった渡辺千萬子をモデルとしたといわれるヒロインが登場するのは、谷崎晩年の集大成ともいえる作品『瘋癲老人日記』。これをしりあがり寿さんが描きます。



 谷崎が作品のなかで描き出した女性たち。そんな女性たちをそれぞれの作家たちはどのような筆致で描き、表現するのか。夢のコラボレーションが実現した、さまざまな楽しみ方ができる一冊となっています。