こんな風にけっして人間に媚びず、一匹のけものとしての誇りを保ちながら人間との共同生活を送るダルシーでしたが、"あたしの人間"が家に帰ってきたときにはこんな風にストレートに愛情を示します。


「あたしは彼女の腕に飛び乗って、頭を彼女のあごにこすりつける。そしていちばんうるさくのどを鳴らした」


「頭で彼女の顔をつっつき、あごを押し、お腹の上をぐるぐる歩いてTシャツをこねた。あたしの人間が帰ってきた!」


の第一人称で語られる物語はけして珍しいものではありませんが、同作には「1匹」と「1人」の間の、かけがえのない愛があります。


訳は作家の江國 香織さん。彼女ならではの瑞々しいセンスで表現された文章もみどころのひとつです。特に、ダルシーの第一人称"あたし"にはちょっと気取った風であり誰にも従属しないような雰囲気が漂っています。"私"でもなく"我輩"でもなく "あたし"は、凛として人間に心の奥底からはけっして気をゆるさない、媚びたりしないダルシーの性質をはっきりと表しているのではないでしょうか。


昨今の猫ブームでは、見た目やしぐさのかわいらしい部分ばかりクローズアップされがち。しかし、同作で描かれる猫はそれとはひと味違い、動物としてのプライドを保ちながら深い愛情を与えてくれます。もし、あなたが飼っている猫がダルシーのような性格だったら......改めて飼い猫の"言葉"に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。