クリップ、ボールペン、万年筆、鉛筆、消しゴム、スティック糊、セロテープ、ホチキス......。一口に"文房具"と言っても、さまざまな機能や特徴を持った製品が次々と登場していますが、そもそもそれらはどのようにして誕生したのか、その歴史をご存知でしょうか。



 自身も文房具愛好家だというジェームズ・ウォードさんによる『最高に楽しい文房具の歴史雑学』では、今では当たり前の存在となり、何気なく使っている文房具の誕生秘話、歴史を明らかにしていきます。



 たとえば、文字を書き間違えたときに使う、修正液。20世紀の初めにタイプライターが普及しはじめると、タイプの誤りを修正する必要性も増加。タイプライターで打ったリボンインクの文字を消すには、平たくて大きなコインの形に成形された、研磨成分の多い消しゴムを用い、1度に1文字ずつ正確に修正していたそうです。



 17歳でテキサス州にて秘書職をはじめたベティ・ネスミス・グラハムさんも、この消しゴムの愛用者。タイプを打つことが苦手だったため、消しゴムで誤字を消す機会も多かったといいます。



 しかし、勤務先の会社がIBMの電動タイプライター(カーボンフィルムリボンを使用)を導入したため、従来のタイプライター用の消しゴムを使うと、紙の上にかすれた跡が残るようになってしまったそう。



 シングルマザーであったベティさんは、自らの仕事に生活がかかっていたこともあり、何か解決策はないものかと思い悩んでいた矢先、絵描きが看板に文字を書いている姿を見て、あるひらめきが。



 書き間違えた文字を消さずに、上から塗り直している絵描きの姿をヒントにし、自らも水性のテンペラ絵の具をボトルに入れて、絵筆といっしょに会社に持参し、タイプミスの修正に使ったのだといいます。



 そしてベティさんがその絵の具を使っていると、同僚から分けてくれないかと頼まれることが多くなったそう。そこでベティさんは、この修正液にビジネスの可能性があることに気がつき、息子が通う学校の化学の教師や地元のペンキ製造業者のアドバイスを受けながら、品質を改良。"リキッド・ペーパー"と名づけ、市場での販売を開始しました。



 はじめはガレージに小さな製造ラインをつくり、毎月数百本ものケチャップボトルに製品を詰めていましたが、その勢いはとどまるところを知らず、1957年にはひと月1000本の売り上げに、1968年には1日1万本、1975年には年間2500万本を製造するまでに成長していきました。



 1980年にベティさんが亡くなると、2500万ドルの遺産は息子のマイケルに。実はこのマイケル、なんとポップ・ロック・バンド"モンキーズ"のメンバーの1人。そしてベティさんの遺産を元手に、後年のMTVの先駆けとなる、ミュージック・ビデオを放映するテレビ番組『ポップクリップス』を制作したのです。

 

 修正液の恩恵は、意外なところにも波及していたことがわかるエピソードなのではないでしょうか。文房具の背景に隠された数々の物語を知れば、いつも使用している文房具にも一層愛着 がわくかもしれません。