『ジョジョの奇妙な冒険』でお馴染み、漫画家・荒木飛呂彦さん。同作品は、登場人物たちの印象的なセリフや、記憶に残るポージングや擬音語等が、多くの読者の心を掴み続け、現在第8部が連載中です。



 30年以上漫画を描き続けている荒木さんですが、デビューしたての頃、もっとも恐れていたのは、編集者が原稿を袋からちょっと出しただけで、1ページもめくらずに、また袋に戻してしまうこと。そのため、どのようにすれば最初の1ページを編集者に読ませることができるのか、様々な工夫を凝らしたといいます。



 漫画を生かすか殺すかを決めてしまうほどに重要な最初の1ページ。本書『荒木飛呂彦の漫画術』では、いかにその1ページを描けばいいかについての分析にはじまり、漫画の基本構造や描き方の方法論が、自身の作品を例にあげながら細かく指南されていきます。



 荒木さんは、漫画には「基本四大構造」があるといいます。基本四大構造----キャラクター、ストーリー、世界観、テーマは、それぞれ独立して存在するのではなく、互いに深く影響を及ぼし合っており、実際に漫画を描く際には、これらを意識することがまず重要だと指摘します。



 たとえば、世界観。世界観を作るためにやるべきことは無限にあるという荒木さんは、そのひとつとして実際に現場に行って自分の目で見てみることをすすめます。荒木さん自身、「ジョジョ」が始まって以来、描く場所には可能な限り足を運び取材をしているのだそうです。そして現地を訪れたならば「パトカーのデザインやポストの形、郵便配達人の服装、トイレがどうなっているか」にいたるまで、細かにチェックするとのこと。



 そうしたチェックが生かされ、ローマが舞台となる、ジョジョ第5部「黄金の風」のクライマックスでは、描かれている建物や信号、交通標識、街路樹などの風景や、ローマのコロッセオからティベレ川までの距離感は正確に描くことができ、漫画の世界に奥行きをもたらすことができたといいます。



 細部にまで神経の行き渡った荒木さんのこだわり。同時に、本書を読みすすめていくと、そのあくなき探究心に驚かざるを得ないのではないでしょうか。美術用の解剖の書籍や実際の彫刻、映画や絵画、ときにシャーロックホームズやヘミングウェイにまで、あらゆる文化や芸術から学びとろうとする姿勢があるからこそ、何十年と第一線で活躍することができているのだということが伝わってきます。



 試行錯誤しながら生み出したアイデアや方法論を惜しげもなく披露した本書『荒木飛呂彦の漫画術』。ファンはもちろんのこと、ひとつの総合芸術としての漫画の奥深さに触れることのできる一冊となっています。荒木さんと、ジョジョ第4部の登場人物・岸辺露伴の抱き合っている――まさに一瞬見ただけでも誰の漫画かすぐにわかる――絵の描かれた帯を見かけたら、是非、手にとってみてはいかがでしょうか。