本のタイトルが『AKB48とブラック企業』。もう、これだけで嫌悪感を抱くAKBファンやら、「深刻な社会問題とアイドルを同列に語るな」とお怒りになるお堅い専門家の方がいるかもしれません。

 また、AKBに興味のない人からしても、今さら感ありありのタイトルであり、テーマではあります。AKBに関するこの手の話は、「ネタにマジレス」するのはどうなの? というレベルに達しているわけです。随分前から。

 

 しかし、そんな思いを蹴散らすほど、本書は真剣に両者の相似性について真っ正面から分析し、主に3つの観点から考察しています。

①「AKB48は労働問題を多く抱えているのにナゼ人気があるのか」

②「AKB48の労働問題は、2000年代後半以降の日本の労働問題と重なっている」

③「AKB48の歌いおいて、労働問題はどのように歌われているか」



 著者は若者の労働問題に詳しい雇用問題総合誌『POSSE』の坂倉昇平編集長。ブラック企業問題の火付け役とも目される方です。



坂倉さんは300ページに迫る分量で、この問題に全力でぶつかっています。



 たとえば、序章部分から2013年のAKB48メンバーの峰岸みなみさんの「丸坊主事件」を取り上げる飛ばしっぷり。恋愛禁止の掟を破り、恋愛スキャンダルを起こした峰岸さんが、「自発的」に頭を丸めYouTube上で嗚咽しながら公開謝罪をした、あの一件です。

 峰岸さんは一度、研究生に降格した後、"禊"の期間を経て正規メンバーに復帰、その後、再びご活躍されているわけですから、ご本人にとっても、他のメンバーにとっても、運営サイドにとっても「過去」の話だと思われます。

 ですが、著者である坂倉昇平さんは、この刺激的なタイトルの本で、そこから話を始めるのです。



「事件は大団円を迎えた、かのように見えた。ただ、そこには抜け落ちていたものがあった。過去の恋愛禁止や丸刈りについて、事実の解明やスタッフの責任ははぐらかされてしまっていた。(中略)秋元康は彼女の労働の苦しみを歌詞にしたため、感動の物語へと昇華させてしまったのだ」(本書より引用)



 本編では、AKB48と日本型雇用の問題点を丁寧に抽出しつつ、重ねあわせていきます。読み進めていくうちに、坂倉さんは決してAKB48が嫌いなわけでも、恨みがあるわけでもないことに気付かされます。むしろAKB48や関連グループに対する愛情が溢れているのです。怖いくらいに。坂倉さんは、AKB48メンバーにではなく、あくまで同グループの雇用システムの歪さを客観的に指摘し続けているのです。



 冒頭にも書いたように、AKB48まわりの問題について、批判したり言及した時点で「ネタにマジレス」ではないですが、総合プロデューサーである秋元康さんの術中にハマっているだけ......という認識はあります。言及した時点で、そのサークルの中に入れられてしまうのではないかという面倒臭さ。だから何も言わない。見て見ぬふりをする、という方も少なくないでしょう。



 ただ、問題は厳然と「そこ」に横たわっています。本書を読むと、改めてその事実を突きつけられます。