1983年にNHK朝の連続テレビ小説として放送されると、平均視聴率52.6%、最高視聴率62.9%という驚きの数字を叩き出した『おしん』。同作が、女優・上戸彩さん出演で映画化されたことで、再び注目を集めています。



『おしん』の舞台となっているのは、今から約100年前。山形県の寒町で生まれたおしんが、明治から昭和にかけての激動の時代を、見事に生き抜く様を描いた彼女の一代記となっています。



約100年前の日本とはどのような状態だったのでしょうか。当時の日本を理解するのに役立つ書籍があります。



1905年、広い世界を知るために、アメリカ、日本、朝鮮、中国、インドネシア、インド、スリランカなどを1年半かけて周遊する旅に出たドイツ人青年のワルデマール・アベグ。彼は、旅中に数多くの写真を撮影しました。当時の貴重な写真を収録しているのが、書籍『一〇〇年前の世界一周 ある青年の撮った日本と世界』です。



ワルデマールが日本に到着したのは、日露戦争後のポーツマス条約が調印された直後のこと。世界一周の旅のなかでも、日本の文化に触れたことが、忘れることのできない思い出となったそうです。



漆芸、貫入のある磁器や素朴な陶器、青銅器、日本刀、象牙などを見てまわっては、「所持金のことを忘れて買い込みたい」という衝動にかられたというワルデマール。最初は警戒していた刺身でしたが、次第に好物となるまでに。燗酒を「一気に体にまわり、華やいだ気分にさせる」と称賛しています。



遊女や芸者との遊びにも興じたようです。なかでも芸者に関しては「エロチシズムを感じさせない女優や歌手のようだ」との感想を残しています。九州・別府を訪れた際には、本書の表紙にもなっている、17歳の芸者「コダマサン」と、15歳の舞妓「ヨボキチ」を席に呼びました。



ワルデマールは2人の写真を数多く撮りました。晩年になっても彼女らをよく思い出し「彼女たちは優雅な物腰をしているので、ポーズにいちいち注文をつけなくても、また、どの角度から撮影しても素晴らしい写真が出来上がった。二人の芸者の写真は私にとってこの上なく貴重なものだ」と語っています。



2人の芸者をはじめ、簡素な和室や日本料理、看板、おいらんなど、その当時に撮影された写真が数多く掲載されている本書。約100年前の日本の姿がイメージできる、またとない一冊と言えるでしょう。