暑い日には、怪談で涼をとるというのも乙なもの。実際に江戸の人たちは落語などで怖い話を聞いて、涼しさを感じることを好んでいたそうです。「身の毛もよだつ」「血の気が引く」「背筋が凍る」という言葉からも、納得できるもの。昔も今もこの感覚は変わらないのです。



 冒頭から、「古い洋館」「殺人」「置屋」「不憫な少女」「大人の女に興味がない男」「美少年」と不吉な未来を予感させる、舞台装置や登場人物の出てくる物語は、それだけで読者の興味をそそると言ってもいいかもしれません。書名は『鸚鵡楼の惨劇』。その作者が「イヤミス」の旗手として名高い真梨幸子氏だと聞けば、さらに期待は高まるでしょう。



 イヤミスとは、イヤな後味が残るミステリーのこと。心の奥底にある人間の感情をえぐり出して暴き、読者は「見たくない」と思っているのに先を読み進めたくなってしまう、ある種中毒性のある推理小説です。真梨氏は、大ベストセラー『殺人鬼フジコの衝動』で大きな話題となった女流作家。先述したように、"エグい"事柄を材料にしているのですが、それぞれの登場人物の心理がしっかりと書かれており、物語のさまざまなシーンで読者に"真理"を提示してくれます。



 今回注目すべきは、ストーリーの核にある「テレゴニー」というテーマ。日本では「先夫遺伝」「感応遺伝」とも言われますが、未亡人や再婚女性が"今の夫"との間に子どもができた場合、前の夫の性質が遺伝するという理論。現在では、遺伝学的にありえないことが証明されていますが、ギリシャ神話などでも描かれ、20世紀になるまでは一般的に信じられていました。同著の主人公である人気エッセイスト・蜂塚沙保里は、テレゴニーの呪縛から逃れられず、人生唯一の"汚点"を消すことができずにいるのです。



 華やかさの背後にある、恐ろしく巨大な"昔の男"の存在。しかもそれは、幼女強姦の罪で刑に服した男...。あなたもこの謎の結末を見届けてみませんか?



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「鸚鵡楼の惨劇」特設サイト

http://www.shogakukan.co.jp/pr/ohmuro