コロナ禍もようやく落ち着き、不動産の売買を考え始めている人も多いのではないだろうか。上手に売買するためには、不動産業界の“取引慣行”を知っておいたほうがいい。

 スタイルオブ東京(東京都港区)の藤木賀子代表は、「大手不動産の仲介手数料の平均は4%を超えている」と指摘し、売り手と買い手の双方を抱え込む事例が多いという。

 このように売り買い双方の立場で仲介をするのは、顧客の利益相反につながる可能性も出てくる。

「裁判で両方の弁護士をしているようなもの」と指摘するのは、個人向け不動産コンサルティングのさくら事務所(東京都渋谷区)広報室の堤晴子さん。

 営業側の都合を優先した取引慣行はほかにもあるという。首都圏郊外の駅前にある不動産店の窓越し広告に、興味深い物件を見つけ、その広告をスマホで撮影し、前出の藤木さんに購入を相談してきた人がいた。藤木さんがその不動産店に問い合わせると、「そのような物件はありません」と伝えられ、「おとり広告」だとわかった。売却済みの物件を広告サイトに残したままにすることもあるという。

 一方で、いい売り出し物件が出てくると、すぐに売買を成約させない営業担当者が少なくないという。前出の山本さんは「成約させて広告から外すと、その物件が集客に使えなくなるため、成約をあえて遅らせることがある」と解説する。

 不動産仲介市場は「情報が非常に不透明」と話すのは、TERASS(東京都港区)広報担当の鈴木彩さん。

 販売物件情報は、レインズ(不動産流通機構)が運営する業者間のシステムに載る。ただ、物件情報の登録義務はなく、「情報の網羅率が低い」と鈴木さんは指摘する。仲介業者にとって情報を載せるメリットがあまりなく、掲載しなくても罰則はないという。また、販売物件の業者しか見ることができない。

 日本のレインズと比較されるのが、米国のMLSで、不動産の情報源として信頼が非常に高いとされる。販売価格や過去の取引価格、修繕や所有者の履歴など、さまざまな情報が掲載されている。業者だけでなく、一般の人も見ることができる。物件情報の登録義務もある。

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