成河(ソンハ)/ 1981年生まれ。東京都出身。法政大学在学中に、東京大学駒場キャンパス内の演劇サークルで演劇を始める。「★☆北区つかこうへい劇団」10期生。平成20年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞、第18回読売演劇大賞・優秀男優賞、第57回紀伊國屋演劇賞個人賞など、受賞歴多数。(撮影/戸嶋日菜乃 ヘアメイク/大宝みゆき)
成河(ソンハ)/ 1981年生まれ。東京都出身。法政大学在学中に、東京大学駒場キャンパス内の演劇サークルで演劇を始める。「★☆北区つかこうへい劇団」10期生。平成20年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞、第18回読売演劇大賞・優秀男優賞、第57回紀伊國屋演劇賞個人賞など、受賞歴多数。(撮影/戸嶋日菜乃 ヘアメイク/大宝みゆき)

 ミュージカル、会話劇、コメディーとさまざまなジャンルがある舞台。各ジャンルを得意とした俳優は多いが、既存のジャンルだけでなく、今までになかったジャンルや奇抜な作品にも呼ばれる俳優が、成河さんだ。成河さんが巨匠らから学んだことを振り返る。

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 舞台がメインだと、映像が主戦場の俳優と違い、とても規則正しい毎日が待っている。一年中、出演舞台が途切れない成河さんでも、「忙しくて死にそう」などと思ったことは一度もないらしい。

「だって、稽古期間中はお昼に稽古して夜に帰る生活、本番も、昼公演と夜公演でちゃんと時間が決まっていますから。もちろん、代わりの利かない仕事なので、体調管理やメンタル管理は大変ですけど、でも仕事って、どんな仕事であってもそういうものじゃないですか。俳優の仕事は特殊に見られがちですが、僕は常々、『与えられた役割を全うするという意味では、普通の仕事と変わらない』と思っています」

 とはいえ、成河さんの舞台を観たことがある人なら、芝居のうまさはもちろんのこと、その声の通り方、身体能力の高さ、歌うときの声の良さなど、超人的なスキルの高さに驚かされたことがあるのではないだろうか。「面白いことがしたい」と考える演出家やプロデューサーが彼を起用したくなるのは、演劇に対する無尽蔵のエネルギーのほか、その独特の感性や、圧倒的な芝居のスキルがあってこそのはず。それでも、成河さん自身は、「謙遜でもなんでもなく、僕の基礎運動能力は人並み以下です」と断言する。

「学校に通っていると、毎年体力測定みたいなのがあって、握力とか反復横跳びとか、そのつどそのつどきちっと測っていくじゃないですか。僕は毎回、超みそっかすでした(笑)。スポーツ科学的には、僕は運動音痴の部類だと思います。でも、そのことと、舞台上で躍動的かどうかは別だということを、僕は野田秀樹さんに教わるんです。演劇においては、足が速いかどうかは問題じゃなく、速く見えるかどうかが大切だということを。たとえば、ウサイン・ボルトがステージの上を本気で走っているところを、彼を知らない人が見て、『速い』と思うかどうか。100人が100人『速い!』って感じるかどうかは怪しいんです。人間が速さや高さを認識するのは、差異がなければ無理なので。それよりもゆっくり歩いてる人が横をしゅん、って追い抜いたとき、それがマッハの速度のように見える」

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