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 作家・長薗安浩さんの「ベスト・レコメンド」。今回は、『黄色い家』(川上未映子 中央公論新社、2090円・税込み)を取り上げる。

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 いくつもの作品が翻訳されて海外でも高い評価を得ている川上未映子の新作『黄色い家』は、2020年の春、40歳の伊藤花が小さなネット記事に見覚えのある名前を見つけた場面からはじまる。吉川黄美子60歳。彼女が若い女性を監禁・暴行した罪で逮捕されていたと知り、花は忘却していた過去を思いだす。

 花が初めて黄美子に会ったのは15歳の夏休みだった。花はスナックで働く母親と粗末な文化住宅に暮らし、そんな生活から抜け出すためにアルバイトで貯めていた金を、高校2年の夏、母親の恋人に盗まれる。花は絶望するが、そんなときに黄美子に再会し、家を出て彼女と同居。2人でスナック「れもん」を開店する。

 年齢を偽って酒は飲んでも、花は真面目によく働く。風水では金運をもたらす黄色にこだわり、とらえどころのない(おそらく障害を抱えている)黄美子に代わって経営や将来について考え、工夫し、地道に貯える。ほどなく、同じように行き場のない同世代の蘭と桃子も店にくわわる。花は4人で暮らせる家を借りてさらに奮闘するが、状況が悪化すると、裏社会に足を踏み入れる。

 たとえそれが非合法でも、花は必死で働く。むろん金のための悪事だが、彼女に物欲はない。どうにか黄美子たちとの生活を守るため、時々の条件下で自分なりに選択し、覚悟をもって仕事をこなしていく。それは一般的には暗黒の数年間だが、未熟で一途な花の青春の物語としても読める点に、この作品のフェアな魅力を感じる。

 生々しい花の青春に引きこまれた私は、読了してからきょうまで、闇バイトに集う若者について何度も考えている。

週刊朝日  2023年3月31日号