「MORE」編集部時代の日高麻子。念願のファッション班に配属され、「東京コレクションから女の生き方を学ぶ」という大特集もてがけた。
「MORE」編集部時代の日高麻子。念願のファッション班に配属され、「東京コレクションから女の生き方を学ぶ」という大特集もてがけた。

「MORE」が、1980年と1981年に行った女性の性に対する調査「モア・リポート」は大反響を呼んだ。

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 もともと、「MORE」が創刊された1977年ごろ、米国で行われて大きな反響を呼んでいた『ハイト・リポート』にヒントを得たものだった。

 これは若い女性の性の意識と実際をアンケート記述形式で、編集部によせてもらうというものだ。編集部内に女性だけの特別チームがくまれ、質問づくりから始まり、「MORE」誌上でアンケートが募集された。

 二回の募集で寄せられた回答は日本全国から5770通、回答者は13歳の中学生から最年長は60歳の主婦まで。<年齢、職業、性体験、環境などじつに幅広い層にわたっていた>(『集英社70年の歴史』)

 その回答の一部が雑誌に掲載されるが、こんな感じだ。

<19歳 OL パートナーは複数(婚約者・友人)

 ──性交中、最もオーガズムを得やすいのはどんな体位や方法ですか。

「私の後ろから彼のペニスが入ってきて、右手では私の腰を支えて、左手は私のクリトリスを刺激する。最初は恥ずかしかったけれど、今、すごく好き」>

 集英社の最終面接で、自立する女性を象徴するカルバン・クラインの服に身を固めた日高麻子は、ここで、面接官の一人から「モア・リポートについてどう思うか?」と聞かれたと記憶している。

 ここで、麻子は頭が真っ白になってしまった。しどろもどろになってしまい、自分が何を言っているのかわからない。正直、これでおちたと思った。

 そのころには、麻子は寮を出てひとり暮らしを始めている。その日はクリスマス・イブだった。一社他の出版社で内定はもっていたが、その出版社は、男女の賃金体系は別、女性誌を出していることは出していたが、古い女性誌しか出していなかった。暗い気持ちで一人部屋で沈んでいると、「電報です!」と戸をたたく声が。

「サイヨウヨテイトケツテイイサイフミ」シュウエイシャ

 日高麻子は、集英社に入社後、念願の「MORE」の編集部に配属されることになる。

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。元上智大新聞学科非常勤講師。

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