ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「口喧嘩」について。

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 私が子供の頃は、男同士で口喧嘩などしようものなら「女みたいに」と窘められたりしたものですが、今はそんなことを言ったら全方位から拳以上のフルボッコに遭う世の中です。

 無論、私はお察しの通り「口喧嘩派」でしたが、体が大きかったのもあって、それでは済まない時もありました。そこにはやはり「男なのだから」という概念が多分に存在していたように思います。大人になって新宿二丁目の世界に身を置き、私なんぞ足元にも及ばないぐらい弁の立つオカマたちが、地獄のような罵り合いをする様もたくさん見てきましたが、彼らも最終的には引っ叩き合い→殴り合いでした。

 今の時代「男らしさ」「女らしさ」なんてものは、もはやナンセンスなのは理解しています。それでもどうして、若い男同士が「口撃」し合っているのを見ると、心の何処かで「女々しいわ」と思ってしまう自分がいることも確かです。ボクシング選手が試合前などに繰り広げるビッグマウス系の舌戦も、興行を盛り上げるための煽りだと解っていながらも、見ているだけで気持ちが萎えてしまうことも少なくありません。プロレスにおけるマイクパフォーマンスしかり、「男のくせにつべこべ言ってないで、俺と勝負しろ!」という、女々しさを逆手に取った「ストーリー作り」において、口喧嘩は有効な「振り」なのでしょう。男らしさを引き合いに出して「言葉や頭を使うな」というのは、紛れもない男性差別です。「女性は殴り合いなんかするな」と同じことです。

 ただ、最近やたらと目につく格闘家同士の罵り合い。あれを見ていると、私の中にある「男性差別意識」がむくむくと湧き立ってきます。特に「これから格闘技で一旗揚げて、人生の勝ち組になってやる」という、人気も実力も駆け出しのファイターらによる口喧嘩。

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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