新明和工業のUS-2救難飛行艇(同社提供)
新明和工業のUS-2救難飛行艇(同社提供)

 国が防衛費を増やし、防衛力を高める姿勢にかじを切ったことから、防衛事業を手がける国内企業に注目が集まっている。予算増で成長も期待されるが、そう簡単な話でもないという。日本の防衛産業の現状と課題を探った。

【図表】国内企業の順位は? 世界の「兵器生産・軍事サービス会社」トップ100の上位企業はこちら

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 日本の「防衛企業」の特徴は、全体的に防衛関連の事業の売上比率が低い点だ。防衛事業だけを専門的に手がける会社は少ないとされる。防衛装備庁が公表している2022年版「中央調達の概況」では、21年度の防衛省との契約高が多い順に20社が載っているが、そのうち、10%を超えるのは三菱重工と川崎重工のみ。

 防衛白書は、国内企業の防衛事業の売上比率は平均4%で、「多くの企業で防衛事業が主要な事業とはなっていない」と指摘する。「世界の『兵器生産・軍事サービス会社』トップ100」で、上位企業の多くが防衛事業の売上比率が5割を超えるのとは大きな違いだ。

 欧米企業の中には1位の米ロッキード・マーチンや4位の米ノースロップ・グラマンのように、8割や9割に達するものもある。なお出典元のストックホルム国際平和研究所は、「中国企業のデータには不確実性もある」と注記している。

 トップ100入りしている国内勢は三菱重工(35位)、川崎重工(54位)、富士通(77位)、IHI(89位)の4社。欧米の上位企業とは、防衛事業の規模の面でも比重の面でも大きな開きがある。

 拓殖大学海外事情研究所の副所長を務める佐藤丙午(へいご)教授は、先行きに不安を覚えているという。

「国内企業の納入先はほぼ防衛省に限られるうえ、予算に制約がある中で防衛省からは高性能化や高機能化といった厳しい注文がつけられる。企業にばかり負担が及ぶ構造です。企業が耐えられず開発体制や生産設備を維持できなくなれば、結果として防衛省自身の首を絞めることになります」

 防衛装備品は独特の仕様で、かつ少量・多品種の受注が求められ、企業にとって割に合わない面もある。値段は設備費や人件費に一定のもうけを上乗せする原価計算方式と呼ぶ方法で決まるが、仕様の変更や資材の値上がりで追加負担が発生することもある。

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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