週刊朝日 2023年2月24日号より
週刊朝日 2023年2月24日号より

 今回、社名を伏せることを条件に内情を明かしてくれた大手メーカーの広報担当者からは「目先のコストを賄うのが精いっぱいで、将来を見据えた研究開発や人材育成に回す余裕なんてない」といった嘆きが聞かれた。長い時間をかけて試作品の開発を進めてきたのに最終的に採用されず、海外製に取って代わられたケースもあったという。海外製の採用で受注期間が空くと、事業を維持するのも難しくなる。

 別のメーカーは「単年度契約」の課題を挙げた。「毎年調達されるものでも、そのつど契約を結ぶ必要がある。調達計画に沿って一括発注してもらえればコストが見通せ、工場の操業計画や人材確保といった生産スケジュールが立てられる。経営の安定につながり、ひいては防衛省の調達コストも下げられるのでは」

 こうした状況を背景に、最近は事業を縮小・撤退する動きが目立つ。国産輸送機C-2など、航空機向けのブレーキやアクチュエーター(駆動装置)をつくるKYBは22年2月、航空機器事業からの撤退を発表した。ほかにも、住友重機械工業の自衛隊向け機関銃、横河電機の計器事業、コマツの装甲車両の新規開発、三井E&Sホールディングスの艦艇建造といった事業撤退が報じられている。

 国も対策に乗り出してはいる。政府は条件付きで武器輸出を認める「防衛装備移転三原則」の運用指針を見直し、輸出を後押しすることも検討するという。防衛産業から撤退する企業の生産設備を、国が一時的に保有できるようにする仕組みをつくる法案も2月10日に閣議決定された。

 だが元防衛省情報分析官で軍事アナリストの西村金一さんは次のように批判する。

「政府は防衛予算を増やすというものの、具体的に何に使いたいのか、中身が見えてきません。本来なら、どこでどんな戦いがあるかを想定し、必要な兵器や優先順位を決め、そのためにいくらかかるのかをはじき出すべきです。でも、そうした議論は不十分なまま金額だけを先走って決めた印象が強い」

 日本の防衛能力や防衛産業を強化することそのものにも、なお真剣かつ具体的な議論が必要だ。一方で安全保障環境は大きく様変わりし、その支え手である防衛企業の重要性が増しているのも事実。政府は、国民や企業の声にもっと耳を傾けるべきだろう。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2023年2月24日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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