ワインスタイン側は、調査を妨害するために弁護士や私立探偵をやとい記者のごみ箱まであさって弱点を探る。二人の記者は、会社の会計係から被害をききとった報告書を入手し、そしてついに実名で告発する女優をえて、初報を出すことができる。これを二人とも、幼子を抱えながらやりとげるのだ。

 こうした前に出る報道なしに、読者はついてこない。日本では、伊藤詩織さんのケースを最初に加害男性の実名と顔写真をいれて『「警視庁刑事部長」が握り潰した「安倍総理」ベッタリ記者の「準強姦逮捕状」』のタイトルで報道したのは週刊新潮(2017年5月18日号)だった。新聞やネットメディアが、伊藤さんのことをさかんにとりあげるようになったのは、彼女が著書を出版し、外国人記者クラブで登壇するなどして、報道する側が「安全」となって以降の話だ。

 筋読みができる才能ある編集者、当局取材を主としない前に出る調査報道、この二つを駆使して、電子有料版の読者を増やすこと。そのことによってのみ「持続可能なメディア」は生まれる。

下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文藝春秋)など。

週刊朝日  2023年2月3日号

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。元上智大新聞学科非常勤講師。

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